みなさん、こんにちは。地域のかかりつけ医として、皆さまの健康をサポートしている**三木(Miki)**です。
日々の診察室で、糖尿病の患者様や、その予備軍と言われる方々から、このような切実な声をよく耳にします。
「先生、食事制限が辛くて続きません……」
「結局、何を食べたらいいのか分からなくなってしまいました」
「薬を飲んでいるから、食事は適当でも大丈夫ですよね?」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。美味しいものを食べることは人生の大きな喜びです。それを「制限」されるというのは、単なる空腹以上のストレスを感じるものです。また、巷には「あれが良い、これが悪い」という情報が溢れかえっており、何を信じていいのか迷子になってしまう方も少なくありません。
しかし、今日ご紹介するお話は、単なる教科書的な指導ではありません。
今回お話しするのは、**ご自身も中学3年生の頃から「1型糖尿病」と共に生き、インスリン注射を打ちながら活躍されている、ある専門医の実践に基づく「生きた知恵」**です。
患者としての「辛さ」を知り尽くし、専門医としての「知識」を持つ彼が実践するコントロール術は、私たちに大きな勇気と具体的な指針を与えてくれます。
薬に頼りきりにならず、かといって無理な我慢もしない。
今日は、その専門医のメソッドをベースに、私、三木医師が医学的な解説を加えながら、**「血糖値を自在にコントロールするための食事と生活の黄金ルール」**について、詳しく、深く、そして温かく解説していきます。
5000文字を超える長編となりますが、これはあなたとご家族の「未来の健康」を守るためのガイドブックです。ぜひ最後までお付き合いください。
1. 医師であり患者である強み:糖尿病は「管理」できる
まず、このメソッドの背景にあるストーリーについて触れておきましょう。その医師は中学3年生、思春期の真っ只中に「1型糖尿病」と診断されました。
1型糖尿病は、生活習慣病である2型とは異なり、膵臓のβ細胞が壊れてインスリンがほとんど出なくなる自己免疫疾患などが原因です。生きるためには、毎日のインスリン注射が欠かせません。
「一生、注射を打たなければならないのか」
当時の彼がどれほどの不安を抱いたか、想像に難くありません。しかし、彼はその運命を呪うのではなく、糖尿病と共に生きる道を選び、さらには専門医となりました。
彼が証明しているのは、**「正しい知識と管理さえあれば、糖尿病があっても健康な人と変わらない、あるいはそれ以上に充実した人生を送れる」**という事実です。
糖尿病は「治る・治らない」という二元論ではなく、「どう付き合っていくか」というマネジメント(管理)の病気です。その管理の要となるのが、薬物療法、運動療法、そして何よりも**「食事療法」**なのです。
2. 血糖値コントロールの核心:「炭水化物」との賢い付き合い方
血糖値を上げる直接的な要因、それは間違いなく**「炭水化物(糖質)」**です。
しかし、炭水化物は脳や体の主要なエネルギー源でもあります。「完全に抜く」のではなく、「適量を知り、質を選ぶ」ことが重要です。
黄金のルール:1食あたりの炭水化物量は?
専門医の知見では、一般的な目安として**「1食あたりの炭水化物量を約75グラム以下に抑える」**ことを推奨しています。
これは具体的にどのくらいの量でしょうか?
- ご飯(白米): お茶碗1杯(約150g)で炭水化物は約55g。
- 果物: 1食分(握り拳1つ分)で炭水化物は約15〜20g。
つまり、**「お茶碗1杯のご飯 + 果物1皿」で、だいたい75gのリミットになります。
もし、体重が気になっている方や、肥満傾向にある方の場合は、この半分の量、つまり「ご飯半膳」**を目安にすることをお勧めします。
「質」を変える:GI値を味方につける
量だけでなく、「質」も重要です。同じ炭水化物でも、血糖値を急激に上げるものと、緩やかに上げるものがあります。これを数値化したのが**GI値(グリセミック・インデックス)**です。
- 高GI食品(避けるべき): 白米、食パン、うどん、砂糖入り飲料、お菓子
- 低GI食品(選ぶべき): 玄米、五穀米、全粒粉パン、オートミール、そば
私も、白米よりも**「玄米」や「五穀米」**を強く推奨しています。これらには食物繊維が豊富に含まれており、糖の吸収を穏やかにしてくれます。
「白い主食」を「茶色い主食」に変える。これだけで、食後の血糖値スパイク(急上昇)をかなり防ぐことができます。
タンパク質は「手のひらサイズ」が目安
お肉や魚などのタンパク質は、血糖値を直接は上げませんが、カロリーオーバーや腎臓への負担を避けるために適量が必要です。
目安は**「自分の手のひら(指を含まない)の大きさ・厚さ」**です。これを1食分と考えましょう。
3. 食べる「順番」を変えるだけ! 魔法の血糖値抑制術
「何を食べるか」と同じくらい、いや、それ以上に重要なのが**「どう食べるか(食べる順番)」**です。
多くの専門医が実践し、私も患者様に強くお勧めしているのが、以下の「ベジ・ファースト」の進化版です。
理想的な食事の順序
- 【最初】野菜・スープ(食物繊維・水分)
- まず、野菜のおかずや海藻、キノコ類、スープをたっぷり食べます。
- 医学的理由: 食物繊維が腸壁をコーティングし、後から入ってくる糖の吸収をブロックします。また、スープで物理的にお腹を膨らませ、満腹中枢を刺激します。
- 【次】タンパク質(肉・魚・卵・豆)
- 次にメインのおかずを食べます。
- 医学的理由: タンパク質や脂質が腸に入ると、「インクレチン(GLP-1など)」というホルモンが分泌されます。これには胃の動きをゆっくりにし、インスリンの分泌を促す作用があります。
- 【最後】炭水化物(ご飯・麺・パン)
- 最後にご飯を食べます。
- 医学的理由: すでに胃腸には食物繊維やタンパク質が待ち構えているため、糖質がゆっくりと消化・吸収され、血糖値の急上昇が抑えられます。
この順番を守るだけで、同じメニューを食べても、食後血糖値の上がり方は劇的に変わります。「ご飯はおかずと一緒に食べたい!」という気持ちは分かりますが、まずは野菜を5分かけて食べる習慣をつけてみてください。
4. 糖尿病だけじゃない!「合併症」のトリプルリスク管理
糖尿病が怖いのは、血糖値が高いことそのものより、それが引き起こす「合併症」です。特に**「高脂血症」「高血圧」「腎臓病」**は、糖尿病とセットでやってくる厄介な親戚のようなものです。
これらのリスク管理についても、具体的な対策を見ていきましょう。
① 高脂血症(コレステロール)対策
血液中の脂質が多い状態は、動脈硬化を加速させます。
- 対策: 揚げ物や脂身の多い肉を控えること。そして**「運動」**です。有酸素運動は善玉コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす最も効果的な薬です。
② 高血圧対策
高血糖で傷んだ血管に、高い圧力がかかると、血管は悲鳴を上げます。脳卒中や心筋梗塞のリスクが跳ね上がります。
- 対策: **「減塩」**がすべてです。塩や醤油の使用量を減らしましょう。
- 調理の工夫: 「蒸す」「茹でる」調理法を中心にし、出汁(だし)や酢、香辛料、ハーブを活用して、塩分が少なくても満足できる味付けを心がけましょう。
③ 腎臓病(糖尿病性腎症)対策
血糖値が高い状態が続くと、腎臓のフィルターが目詰まりを起こします。人工透析になる原因の第1位は糖尿病です。
- 対策: **「タンパク質の制限」**が必要になる場合があります。ただし、自己判断での制限は危険(筋肉減少など)ですので、必ず主治医や管理栄養士と相談して、適切なタンパク質量を決めてください。
5. 「運動」は天然のインスリン
食事療法と並ぶ両輪が「運動療法」です。
適度な運動は、血液中のブドウ糖を筋肉に取り込ませ、血糖値を下げる効果があります。
なぜ運動が効くのか?
筋肉は、体の中で最大の「糖の貯蔵庫」です。筋肉を動かすことで、インスリンの助けがなくても、細胞が糖を取り込みやすくなります(インスリン抵抗性の改善)。
- タイミング: **「食後30分〜1時間」**がベストです。血糖値が上がり始めるこのタイミングで運動をすると、ピークを抑えることができます。
- 内容: 激しい運動である必要はありません。食後の散歩、ラジオ体操、スクワットなど、「少し息が弾む程度」の有酸素運動を20〜30分行いましょう。
6. 三木医師からのアドバイス:継続するためのマインドセット
ここまで、専門医の実践メソッドを解説してきましたが、最後に私から、これを「続ける」ための心構えをお伝えします。
完璧を目指さない「80点主義」で
毎日毎食、完璧にコントロールしようとすると、必ず疲れてしまいます。
「今日は友人と外食だから、少し羽目を外してしまった」
それでもいいのです。その代わり、翌日の食事を少し控えめにしたり、いつもより多く歩いたりして調整すれば、体は許してくれます。
「計る」習慣をつける
体重、そして可能なら血糖値(自己測定器やリブレなど)を測り、自分の体のパターンを知りましょう。
「このパンを食べるとこんなに上がるんだ」「野菜から食べると本当に上がらないな」
自分の体の反応が目に見えると、食事療法は「制限」から「実験」のようなゲーム感覚に変わり、モチベーションが維持しやすくなります。
医療チームを頼る
薬の調整は医師の仕事ですが、生活の主役はあなた自身です。
私たち医師、看護師、管理栄養士は、あなたのサポーターです。辛いこと、分からないことがあれば、いつでも相談してください。一人で抱え込まないことが、長期戦を乗り切るコツです。
結びに
糖尿病は、放置すれば恐ろしい病気ですが、正しく向き合えば、自分の体を大切にするきっかけを与えてくれる病気でもあります。
インスリン治療を行いながら、医師として第一線で活躍されている先生のように、糖尿病があっても、生き生きと活躍している人はたくさんいます。
「ご飯半膳」「ベジ・ファースト」「食後の運動」。
今日からできる小さな習慣の積み重ねが、5年後、10年後のあなたの笑顔を守ります。
「一病息災(一つの病気があることで、かえって健康に気をつけて長生きすること)」という言葉があります。
糖尿病というパートナーと上手く手を取り合いながら、健康で豊かな人生を歩んでいきましょう。
あなたのその一歩を、私も全力で応援しています。
