「心臓は正常です」と言われたけれど…止まらない動悸の正体。心臓内科医が見落とす『意外な2つの犯人』とは?

「心臓は正常です」と言われたけれど…止まらない動悸の正体。心臓内科医が見落とす『意外な2つの犯人』とは?

こんにちは、総合診療医の三木です。

診察室で多くの患者さんと向き合っていると、検査データには表れない「身体の悲鳴」を耳にすることがあります。その代表格が、原因不明の**「動悸(どうき)」**です。

静かに座っているだけなのに、まるで全力疾走した後のように心臓が暴れる。 夜、布団に入ると鼓動が耳に響いて眠れない。

循環器の専門医が「心臓に異常はない」と言ったのなら、それは事実です。あなたの心臓という「エンジン」自体は壊れていません。しかし、だからといってあなたの苦しみが嘘であるわけではありません。

実は、エンジン(心臓)ではなく、エンジンを積んでいる「車体(構造)」や、隣り合う「同乗者(胃腸)」がトラブルを起こしているとしたらどうでしょう?今日は、西洋医学の枠を超え、身体全体のつながりからあなたの動悸の正体を解き明かしていきます。

心臓は「防音室で踊るダンサー」である

少しイメージしてみてください。 あなたの心臓は、生まれた瞬間から死ぬその時まで、片時も休まず踊り続ける「元気なダンサー」です。このダンサーは、肋骨や横隔膜でできた「ダンススタジオ(胸郭)」の中で踊っています。

健康な状態とは、このスタジオの壁に高性能な「吸音材(衝撃吸収材)」がびっしりと貼られている状態です。だから、中でどれだけ激しく踊っても、外にいるあなたにはその振動や音は伝わりません。これが「動悸がしない」状態です。

しかし、もし**地震(外傷や衝撃)**でスタジオの柱が歪んでしまったら?あるいは、**床下(胃腸)**から突き上げられて床が隆起してしまったら?

壁の吸音材に隙間ができ、防音機能が失われます。すると、今まで聞こえなかったダンサーの足音(心拍の振動)が、ダイレクトに壁を伝ってあなたに響くようになるのです。

これが、検査で異常が出ない動悸の正体——**「構造的な問題」「胃腸の問題」**です。


犯人その1:歪んだダンススタジオ(構造型動悸)

心臓を包む「心膜」は、宙に浮いているわけではありません。靭帯というロープで、背骨、肋骨、胸骨に吊り下げられています。いわば、ハンモックのようなものです。

もし、猫背やスマホの使いすぎ、あるいは過去の怪我で**「胸郭(肋骨の鳥かご)」自体が歪んでいたら**どうなるでしょうか? ロープ(靭帯)が変な方向に引っ張られ、心臓の居心地が悪くなります。心臓というエンジンが車体に干渉し、ガタガタと振動を伝え始めるのです。

■ あなたのスタジオは大丈夫?恐怖の「歪みチェック」

以下の3つのうち、1つでも当てはまれば、あなたの動悸は「身体の歪み」から来ている可能性があります。

1. 「三心同面」ができない これが最も重要なサインです。

  • 鏡の前で腕を横に広げ、手のひらを正面に向けます。
  • この時、**「胸」と「肘の内側」と「手のひら」**を、ねじれることなく一枚の壁にペタッとつけられますか?
  • 「肘が勝手に曲がる」「手のひらが正面を向かない」「腕を伸ばすと胸が突っ張る」 → これらは、腕から胸にかけての筋膜がガチガチにねじれている証拠です。このねじれが、心臓の部屋を狭くしているのです。

2. 肋骨が「洗濯板」になっている

  • 自分の胸や肋骨を優しく撫でてみてください。
  • 左右で高さが違う、一部だけボコッと飛び出している、デコボコしている。
  • まるで使い古した洗濯板のように不整地になっていれば、胸郭という「部屋」はすでに歪んでいます。

3. 呼吸で膨らみ方が違う

  • 深呼吸をした時、右胸と左胸、同じように膨らみますか?
  • どちらかが硬くて動かない場合、その内側にある心臓もまた、窮屈な思いをしています。

■ 今日からできる処方箋:胸郭解放ストレッチ

もし上記に当てはまったなら、抗不安薬を飲む前に、この「構造を治すストレッチ」を試してください。

  1. 腕を広げる: 仰向け、もしくは椅子に座り、両腕を左右に大きく広げます。指先までピンと伸ばし、パーの形にしてください。
  2. ねじれを取る: 手の位置を肩の高さまで上げたら、肘のくぼみと手のひらを、しっかりと「正面」に向けます(これだけで二の腕や胸がピリピリするはずです)。
  3. 肩を下げる: 肩がすくまないように、意識して肩を下げます。
  4. 呼吸で溶かす: その姿勢のまま、ゆっくりと深呼吸を繰り返します。吸う息で、突っ張っている胸の筋膜が内側から広げられるのをイメージしてください。吐く息で、緊張を解きます。

これを続けることで、歪んだスタジオが修復され、心臓の「音漏れ」が静まっていく感覚を味わえるはずです。


犯人その2:床下からの突き上げ(胃腸型動悸)

もう一つの見落とされがちな犯人。それは、心臓の真下に住んでいる「胃」と「腸」です。 医学的には**「胃心症候群(Gastro-cardiac syndrome)」**とも呼ばれる病態です。

心臓と胃は、横隔膜という薄い膜一枚を隔てただけの「上下階の住人」です。 もし、下の階(胃腸)でガスが充満し、パンパンに膨れ上がったらどうなるでしょうか?風船のように膨らんだ胃腸は、天井(横隔膜)を押し上げます。 すると、上の階に住む心臓は物理的に圧迫されます。

「狭い!邪魔だ!」 心臓は圧迫されると、刺激を受けて過敏になり、脈を乱したり(期外収縮)、強く拍動したりして抵抗します。これが、食後や空腹時に起きる動悸の正体です。心臓が悪いのではなく、下の階からの騒音被害に遭っているだけなのです。

■ 私は「胃腸型」? 3つのチェックポイント

1. 食事のタイミングで心悸が起きる

  • 「満腹まで食べた直後」にドキドキする(胃が膨れて圧迫している)。
  • 「空腹が長く続いた時」にドキドキする(胃酸過多や胃の痙攣が刺激になっている)。
  • 食事と動悸がリンクしているなら、ほぼ間違いなく胃腸が犯人です。

2. 循環器の薬が効かず、むしろ具合が悪くなる

  • β遮断薬(脈を抑える薬)を飲んでもスッキリしない、逆にだるくなる。
  • 一方で、胃薬や整腸剤を飲んだ時の方が、胸が楽になる感覚がある。

3. お腹の不調がセットである

  • 便秘がち、または下痢しやすい。
  • 食後すぐにお腹が張る(腹部膨満感)。
  • ゲップやガスが多い。

■ 総合診療医からの提言:心臓を守るための「引き算」

もしあなたが「胃腸型」なら、今すぐやるべきは心臓の検査ではなく、胃腸を休ませることです。

特に、以下の「3大・胃腸いじめ食品」を2週間だけ断ってみてください。

  • 肥満を招く甘い誘惑: ケーキ、チョコレート、高脂肪なスナック菓子。これらは胃の滞留時間が長く、異常発酵してガスを発生させます。
  • 大人の刺激物: アルコール(特にビールなどの炭酸系)、そしてコーヒー。これらは胃粘膜を荒らし、心拍数を上げ、ダブルパンチで心臓を苦しめます。
  • 高糖質の炭酸飲料: 胃を一気に膨らませる最強の「心臓圧迫剤」です。

「心臓のために、胃を労る」。 嘘のようですが、消化の良い食事(お粥やうどん)に変え、腹八分目を心がけるだけで、あの恐ろしい動悸が嘘のように引いていく患者さんを、私は何人も見てきました。


最後に:あなたは、自分の身体の主治医になれる

ここまで読んで、「もしかしたら、私のことかも」と少しでも思っていただけたなら、それだけで大きな一歩です。

心臓内科の検査で「異常なし」と言われたことは、決して「見放された」わけではありません。「手術や強力な薬が必要な、危険な心臓病ではありませんよ」という、ある種の**「合格通知」**をもらったと考えてください。

しかし、合格通知をもらっても症状があるのなら、視点を変える必要があります。 「構造(姿勢・筋膜)」と「化学(食事・胃腸)」。 この2つの視点を取り入れることで、あなたは自分自身で動悸をコントロールできる可能性があります。

もし、自分ひとりでは難しいと感じたら、私たちのような総合診療医や、身体の構造に詳しい理学療法士、あるいは胃腸を整える漢方医を頼ってください。医療は心臓だけを見るものではありません。あなたの「全体」を見るのが、本来の医療です。

あなたの胸の鼓動が、恐怖の対象から、生命を刻む力強いリズムへと戻ることを、医師として心から願っています。

大丈夫。原因は必ずあります。そして、アプローチする方法も、必ずありますから。


瘋狂設計師 Chris
三木医師
総合診療科医・三木が築く**「健康防衛砦」。病気から身を守る最新医療の知識と、体を内側から強くする漢方・美容の知恵を公開。ゆるぎない生命力**の土台を共に作り上げます。