こんにちは。総合診療医の三木です。
診察室で患者さんとお話ししていると、特に女性の患者さんから非常に多く寄せられる悩みがあります。 それは、**「むくみ(浮腫)」**です。
「先生、朝起きると顔がパンパンで、別人のようになっているんです」 「夕方になると足がむくんで、ブーツのファスナーが上がらないんです」 「デトックスのためにトウモロコシのひげ茶やハトムギ茶をガブガブ飲んでいるのに、全然良くなりません」
そんな切実な訴えを聞くたびに、私はまず深く頷き、そしてこう伝えます。
「頑張りましたね。でも、その努力の方向性が、もし少しだけズレていたとしたらどうでしょう?」
今日は、多くの人が誤解している**「むくみの底にある本当の論理」**について、医学的見地と東洋医学の知恵を交えながら、少し踏み込んでお話ししたいと思います。
もしあなたが、利尿作用のあるお茶を飲んでも、マッサージをしても、すぐにまたむくんでしまうのであれば……この記事はあなたのためのものです。
あなたの体は「水」で溢れているのではありません。「ヘドロ」で詰まっているのです
まず、常識を一度リセットしましょう。 多くの人は「むくみ=体の中の水分が多すぎる状態」だと考えています。だから、「水を控えよう」としたり、「利尿剤で無理やり出そう」としたりします。
しかし、私が診る限り、慢性的にむくみに悩む方の多くは、水が多すぎるのではありません。 **「通り道が塞がれている」**のです。
少し想像してみてください。 あなたの体の中に、綺麗な川が流れているとします。 健康な状態であれば、上流から流れてきた水は、サラサラと川を下り、海(排出)へと流れていきます。この時、川岸(細胞や組織)は適度に潤い、清潔です。
しかし、もしその川に、大量の「泥(粘土)」や「ゴミ」が投げ捨てられたらどうなるでしょうか? 川底にはヘドロが溜まり、流れは滞ります。行き場を失った水は、川岸から溢れ出し、周囲の土地をジメジメと水浸しにします。
これが、あなたの体で起きている**「むくみ」の正体**です。
医学的に言えば、血管やリンパ管、そして組織間液の循環不全ですが、東洋医学ではこれを**「三焦(さんしょう)の詰まり」**と表現します。 つまり、いくら「水を抜く薬」や「お茶」を飲んだとしても、川をせき止めている「ヘドロ(詰まり)」を取り除かない限り、溢れ出る水(むくみ)は止まらないのです。
では、一体どこが詰まっているのでしょうか? 実は、私たちの体には「水が詰まりやすい3つの関所」が存在します。
- 入り口(脾胃:胃腸)
- 中継地点(肺:呼吸器・皮膚)
- 出口(腎・膀胱:排尿機能)
あなたがどのタイプで詰まっているのか、一緒にチェックしていきましょう。
【第一の関所】お腹が張る、便がベタつく…「胃腸の炎症」タイプ
「えっ?むくみなのに胃腸?」と驚かれるかもしれません。 しかし、これこそが現代人に最も多い、そして最も見落とされている原因です。
食べたものが最初に通る「胃腸(脾胃)」が、炎症という名の「ヘドロ」で詰まっているケースです。
このタイプの特徴
- お腹が張りやすい、またはなんとなくシクシク痛む。
- 便がベタつく。(便秘とは限りません。水洗トイレを流しても便器に汚れが残りやすかったり、拭いても拭いてもスッキリしない感覚がある場合です)
- 食後に異常な眠気やだるさを感じる。
心当たりはありませんか? これは、普段の食事によって腸内に炎症物質が蓄積し、消化吸収のシステムが「渋滞」を起こしているサインです。
原因は明白です。 スナック菓子、加工食品、そして何より**「果糖ブドウ糖液糖(高フルクトース・コーンシロップ)」**などの質の悪い糖分です。 「健康のために」と毎日フルーツを大量に食べている方も要注意です。果糖の過剰摂取は、人によっては腸の炎症を引き起こし、強烈な「むくみ」の引き金になります。
この状態で利尿作用のあるお茶を飲んでも、ザルで水をすくうようなもの。 まずは、腸という「入り口」のヘドロを掃除し、炎症を鎮めること。食事の内容を見直すことこそが、あなたの顔のむくみを取る最短ルートなのです。
【第二の関所】トイレに行ってもスッキリしない…「エネルギー不足」タイプ
次に疑うべきは、排出の要である「腎・膀胱」の機能低下です。 これは単に「腎臓の数値が悪い」という意味ではありません。「水を押し出す力が弱まっている」という機能的な問題です。
このタイプの特徴(小便不利の3徴候)
- 排尿に時間がかかる:トイレに入ってから尿が出るまでに「間」がある。隣の人が用を足して出ていっても、まだ自分は出ない。
- 勢いがない:お腹に力を入れないとチョロチョロとしか出ない。若い頃のような「放物線を描くような勢い」がない。
- 残尿感がある:出し切ったはずなのに、まだ残っている感じがする。下着を上げた瞬間に「あっ」と少し漏れそうになる。
これらに加え、**「極度の疲労感」や「冷え」**がある場合、あなたの体は「水を排出するためのエネルギー」すら枯渇している可能性があります。
ここで一つ、厳しいことを言わせてください。 もしあなたがこのタイプで、「トウモロコシのひげ茶」や「利尿剤」を常用しているなら、今すぐやめてください。
なぜなら、あなたの細胞(従業員)は「サボっている」のではなく、「過労で倒れている」状態だからです。 疲れ切って動けない従業員に対して、「もっと働け!水を出せ!」とムチを打つような指令(利尿剤)を出せばどうなるか? 一時的には水が出るかもしれませんが、その後、体は防衛反応としてさらに水を溜め込み、以前よりもひどい「リバウンドむくみ」を引き起こします。
必要なのは「排出させること」ではなく、まずは「休ませ、エネルギーを補給すること(補気・補腎)」なのです。
【第三の関所】風邪が長引く、肌が荒れる…「肺の詰まり」タイプ
最後は意外かもしれませんが、「肺」です。 東洋医学では、肺は「水の上源(すいのじょうげん)」と呼ばれ、体内の水分を全身にシャワーのように散布し、巡らせる役割を担っています。
このタイプの特徴
- 風邪を引いた後から、なんとなくむくみやすくなった。
- 咳や鼻水、喉の痛みが慢性的にある。
- 皮膚トラブルがある(アトピー性皮膚炎、湿疹、原因不明の痒みなど)。
「皮膚は内臓の鏡」と言いますが、皮膚の呼吸や代謝がうまくいっていない人は、体表近くの水はけが悪くなっています。 水塔(肺)から伸びるパイプが詰まっているせいで、水が溢れ出している状態です。 この場合、むくみの治療よりも先に、慢性的な鼻炎や皮膚炎、呼吸器のケアを優先することで、嘘のようにむくみが引いていくことがあります。心肺機能を高める有酸素運動も非常に効果的です。
では、明日からどうすればいいのか?
ここまで読んで、「私のことだ…」とドキッとされた方も多いのではないでしょうか。 むくみは、あなたの体が発している「SOS」であり、「どこかが詰まっていますよ」というメッセージです。
明日から、以下の3つを意識してみてください。
- 「水」ではなく「お腹」を見る 鏡で顔のむくみをチェックする前に、トイレで自分の便を観察してください。ベタついていませんか? お腹が張っていませんか? もしそうなら、まずは甘い飲み物や加工食品を3日間だけやめてみてください。
- 「出す」ことより「整える」こと 無理に汗をかいたり、利尿作用のあるサプリに頼るのを一度ストップしましょう。代わりに、消化の良い温かい食事を摂り、しっかりと睡眠をとって、弱った「排出ポンプ」の充電期間を作ってください。
- 自分の「詰まり場所」を知る 胃腸なのか、排尿機能なのか、それとも呼吸器・皮膚なのか。ご自身の体の声に耳を傾けてください。
水は、本来あなたの敵ではありません。 あなたの体を瑞々しく潤してくれる、大切なパートナーです。 そのパートナーがスムーズに流れるように、川底の掃除をしてあげること。それが、私たちが目指すべき**「水嫩(みずみず)しくて、むくまない体」**への唯一の道です。
もし、ご自身で判断がつかない場合や、症状が長く続く場合は、私たちのような専門家を頼ってください。漢方薬などを使って、あなたの体質に合わせた「配管工事」をお手伝いすることができます。
あなたの体が、本来の軽やかさを取り戻せることを、心から願っています。
三木医師(総合診療科) 日々の診療の中で見逃されがちな「体の底にあるロジック」を分かりやすく解説することに情熱を注いでいます。
