こんにちは、総合診療医の三木です。
診察室のドアを開けて入ってくる患者さんの表情で、私はすぐに察することがあります。
伏し目がちで、少し猫背気味。そして、無意識に袖口を引っ張り、肌を隠そうとする仕草。
「先生、もう何年も皮膚科に通っているんです。強い薬も飲みました。でも、ここだけは……どうしても治らないんです」
そう言って見せてくれる肌は、長年の炎症で硬くなり、赤黒く変色していることがあります。
その辛さ、本当によく分かります。痒みというのは痛み以上に精神を蝕みます。
「自分の管理不足だ」と自分を責めないでください。あなたが悪いのではありません。
ただ、「治療のアプローチ」において、見落とされている視点があるだけなのです。
今日は、一般的な皮膚科治療ではあまり語られることのない、「治らない皮膚炎」の裏側に潜む3つの真犯人についてお話しします。特に最後に紹介する「構造(骨格)」の話は、目から鱗が落ちるかもしれません。
なぜ、あなたの湿疹は「そこ」にあるのか?
そもそも、湿疹とは何でしょうか?
東洋医学的な視点を取り入れると、それは**「体が出そうとしているゴミ(湿気・毒素)」**です。
通常なら、汗や尿、便として排出されるべきものが、何らかの原因で皮膚から噴き出している状態です。
では、なぜ薬を塗っても治らないのでしょうか?
動画で阿銘師が解説していた内容は、私たち医師にとっても非常に示唆に富むものでした。湿疹の原因は大きく分けて**「構造」「感情」「化学(内科的要因)」の金三角(ゴールデントライアングル)**で成り立っています。
特に、内科的な治療(食事制限や薬)を頑張っているのに治らない場合、私たちは**「物理的な身体の歪み」**を疑う必要があります。
衝撃の事実:その湿疹、実は「骨の歪み」が原因かも?
これが今回、最もお伝えしたいことです。
**「構造型湿疹」**と呼ばれるタイプです。
「洗濯物のシワ」理論
想像してみてください。
洗い終わったシャツが、クシャクシャに丸まったまま乾いてしまったらどうなりますか?
そのシワの奥まで、アイロン(薬)や糊(栄養)を行き渡らせるのは難しいですよね。
人間の体も同じです。
例えば、昔ひどい捻挫をした、骨盤が傾いている、猫背がひどい……。
こうした**「構造の歪み」**があると、それに関連する皮膚や筋膜が引っ張られたり、逆に圧迫されてシワになったりします。
すると、その**「構造のシワ(死角)」**となっている部分(膝の裏、股関節、腋の下など)だけ、血流やリンパの流れが極端に悪くなります。
- どんなに良い薬を塗っても、成分が届かない。
- どんなに体に良い食事をしても、栄養が届かない。
- 自分の治癒力が、そこだけ通行止めになっている。
これが、全身の湿疹は良くなったのに、「特定の場所だけ頑固に残る」原因です。
この場合、いくら薬を変えても意味がありません。「骨格の歪み」を整え、通行止めを解除することこそが、唯一の解決策なのです。
あなたの体はどっち?「湿気」が溜まる2つのパターン
構造の問題以外にも、内科的な要因(化学)も無視できません。
ここでは、体内に「湿気(毒素)」が溜まってしまう原因を、大きく2つのタイプに分けて解説します。
タイプA:ゴミを生産しすぎている「過剰生産型」
体が処理しきれないほどの湿気(ゴミ)を自ら作り出しているパターンです。
- 食積(しょくしゃく)タイプ:食べ過ぎ・代謝不良
- 単純に「食べ過ぎ」ているか、自分の体質に合わないものを食べています。
- 体内で代謝しきれなかった食べ物が、腐敗したゴミのように「湿気」となって蓄積します。
- 火気(かき)タイプ:炎症消火活動
- これは興味深いメカニズムです。体の中に「炎症(火)」があると、体はそれを消すために「水(湿気)」を集めます。
- 火事場に放水車が来るようなものです。
- 特に**「腸内環境」**が重要です。腸は巨大な粘膜です。ここが荒れている(火事になっている)と、体は常に水を溜め込み、それが皮膚へと溢れ出します。
- 特徴: 赤みが強く、熱を持っている湿疹。
タイプB:ゴミ出しができていない「排出不良型」
ゴミの量は普通なのに、ゴミ収集車が来ないパターンです。
- 虚証(きょしょう)タイプ:バッテリー切れ
- 体内の除湿機(東洋医学でいう脾・肺・腎)の電池が切れています。
- 疲れやすく、胃腸が弱い人に多いです。
- このタイプに必要なのは「デトックス(出すこと)」よりも**「充電(補うこと)」**です。無理に排出しようとすると、余計に疲れて悪化します。
- 対策: 人参や生姜などで、内臓を温めてパワーチャージする必要があります。
- 外感(がいかん)タイプ:サランラップ梱包
- 体の表面の毛穴や筋膜がギュッと閉じてしまっている状態です。
- まるで全身をサランラップで巻かれているかのように、汗や湿気が外に出られず、皮膚の下でこもっています。
- 対策: 葛根湯のような「発汗させる薬」で、毛穴というドアを強制的に開く必要があります。
【自己診断チャート】あなたの湿疹はどのタイプ?
ここで、情報を整理するために表を作成しました。ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
| 湿疹のタイプ | 主な特徴 | 発生場所の傾向 | 必要なアプローチ |
|---|---|---|---|
| 1. 構造型 | 薬が効きにくい、左右非対称、頑固 | 関節の裏、鼠蹊部、首、腋の下など**「体の隅」** | 整体、徒手療法、ストレッチ、姿勢改善 |
| 2. 食積型 | 食べ過ぎると悪化、お腹が張る | 全身、口周り | 食事制限、消化を助ける薬 |
| 3. 火気型 | 赤みが強い、熱い、便秘や下痢 | 粘膜に近い部分、顔、胸 | 抗炎症、腸活、辛いものを避ける |
| 4. 虚証型 | ジュクジュクしている、疲れやすい、冷え性 | 下半身に多い傾向 | 温める、消化の良い食事、休息(補気) |
| 5. 外感型 | 季節の変わり目に悪化、皮膚が張っている | 上半身、背中 | 発汗療法、入浴、適度な運動 |
医師・三木からの提言:今日からできる「視点の転換」
ここまで読んで、「私の湿疹は一つじゃないかも……」と思った方もいるでしょう。
その通りです。これらは複雑に絡み合っています。
「構造の歪み」があり、そこに「食生活の乱れ」が重なり、「ストレス」で火がついている。これが多くの慢性患者さんの実態です。
だからこそ、私はあなたに伝えたい。
「皮膚だけを見て、一喜一憂するのはもうやめましょう」
皮膚は、あなたの体からの「手紙」です。
「ここが歪んでるよ」「腸が疲れてるよ」「エネルギー切れだよ」というメッセージを、湿疹という形で必死に伝えているのです。
明日からできる3つのステップ
自分の湿疹を「地図」として見る
鏡を見て、湿疹の場所を確認してください。右だけにある? 膝の裏だけ治らない? それは、あなたの体の「歪み」の地図かもしれません。治らない場所があれば、その関節の動きが悪くないかチェックしてみてください。
腸という「内なる皮膚」をいたわる
皮膚と腸は繋がっています。皮膚が荒れている時は、腸の粘膜も荒れています。まずは小麦や乳製品、甘いものを少し控え、お腹を休める時間を作ってください。
「専門家の力」を借りる勇気を持つ
皮膚科の薬で治らないなら、それは皮膚科の領域を超えているサインかもしれません。
内科的な漢方治療や、体の歪みを治す整体や理学療法など、アプローチを変えることは「逃げ」ではなく「前進」です。動画でも推奨されていたように、信頼できる徒手療法の専門家に相談するのも一つの大きな手です。
最後に
長年、皮膚の悩みを抱えていると、心までふさぎ込んでしまうことがあります。
「どうせ治らない」と諦めてしまうこともあるでしょう。
でも、人間の体には素晴らしい復元力が備わっています。
ただ、その復元力の「スイッチ」がどこにあるのか、今まで少し見つけにくかっただけなのです。
それが「骨」かもしれないし、「腸」かもしれないし、「心の休息」かもしれない。
この記事が、あなたがそのスイッチを見つけ、本来の美しい肌と、何より「笑顔」を取り戻すための小さなきっかけになれば、医師としてこれほど嬉しいことはありません。
あなたの肌は、必ず応えてくれます。焦らず、一つずつ、絡まった糸を解いていきましょう。
