【医師が解説】「乾燥するから脂が出る」は嘘?オイリー肌の真実と、保湿神話の落とし穴

【医師が解説】「乾燥するから脂が出る」は嘘?オイリー肌の真実と、保湿神話の落とし穴

こんにちは、三木です。

日々の診療の中で、肌荒れやニキビ、そして「顔のテカリ」に悩む患者さんと向き合っています。
診察室でよく耳にするのが、こんな言葉です。

「デパートのコスメカウンターで『インナードライ肌ですね』と言われました」
「オイリー肌なのは乾燥しているせいだから、もっと保湿してくださいとアドバイスされました」

皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
「肌の水分が足りないから、代償として油分が多く出ている。だから、テカリを抑えるには保湿が必要だ」という理論です。

今日は、医師として、そして科学的根據(エビデンス)を重んじる立場から、この**美容業界に蔓延する「インナードライの誤解」と「保湿神話」**について、少し厳しい真実をお伝えしなければなりません。

もしあなたが、テカる肌に必死にクリームを塗り重ねているなら、この記事がその「終わりのないスキンケア迷子」から抜け出すきっかけになるはずです。


1. 「水分不足で油が出る」という理論の科学的矛盾

まず結論から申し上げます。
「保湿不足(乾燥)が原因で、皮脂分泌量が増える」という医学的な根拠は、現時点ではありません。

多くの美容部員さんやエステティシャンの方が善意でアドバイスしてくれる「代償性出油(乾燥を補うために油が出る)」という概念は、皮膚生理学の観点から見ると大きな誤解を含んでいます。

水分と油分は「別の蛇口」である

私たちの皮膚には、水分を保持するシステム(角質層)と、油分を分泌するシステム(皮脂腺)があります。これらは全く別のメカニズムで動いています。

  • 角質層(水分): レンガのように積み重なった細胞と、その間を埋める細胞間脂質で構成され、バリア機能を担います。
  • 皮脂腺(油分): 毛穴の奥にあり、ホルモンの指令を受けて皮脂を製造・分泌します。

「肌表面が乾燥したぞ!緊急事態だ!皮脂腺よ、もっと油を出せ!」という指令が脳や皮膚内部で送られるようなシステムは、生理学的には確認されていません。
もし乾燥するだけで皮脂が増えるなら、乾燥肌(アトピー性皮膚炎など)の患者さんは、みんな顔がテカテカになっているはずですが、実際はそうではありませんよね。

なぜこの誤解が広まったのか?

それは「肌表面の感覚」と「マーケティング」が結びついた結果だと考えられます。
肌が突っ張る感じ(乾燥感)があるのに、表面はテカっている。この矛盾した状態を説明するために「インナードライ(内側は乾いている)」という言葉が生まれ、それが「だからもっと化粧品を使いましょう」というセールストークに利用されやすかったのです。

しかし、真実はもっとシンプルで、かつ残酷です。
**「オイリー肌の人が乾燥を感じている場合、それは保湿不足ではなく、肌が『炎症』を起こしているサイン」**である可能性が高いのです。これについては後ほど詳しく解説します。

2. 皮脂量を決定づける「3つの絶対的因子」

では、なぜあなたの肌はテカるのでしょうか?
いくら化粧水を浴びるように塗っても皮脂が止まらないのはなぜでしょうか?

それは、皮脂分泌をコントロールしているのが、化粧品(外部からの水分)ではなく、以下の3つの内部要因だからです。

① 遺伝子(Genetics)

残念ながら、これが最も大きな要因です。
身長や髪質が遺伝するように、皮脂腺の大きさや活性度も遺伝します。ご両親や親族にオイリー肌の方が多い場合、あなたの皮脂腺も活発である可能性が高いです。これは生まれ持った体質であり、化粧品で遺伝子を書き換えることはできません。

② ホルモンバランス(Hormones)

皮脂腺に直接命令を下すのは「ホルモン」です。
特に重要なのが**アンドロゲン(男性ホルモンの一種)です。アンドロゲンは男性だけでなく女性の体内にも存在し、これが皮脂腺の受容体(レセプター)に結合すると、「皮脂を作れ!」という強力な指令が出ます。
また、女性の場合はプロゲステロン(黄体ホルモン)**の影響も受けます。生理前に肌が脂っぽくなったりニキビができたりするのは、このホルモンの影響です。

③ 食事(Diet)

近年、食事と皮脂分泌の関係が注目されています。
特に以下の食品は、IGF-1(インスリン様成長因子)という物質を増やし、それが間接的にアンドロゲンの働きを活性化させ、皮脂分泌を促すことがわかっています。

  • 高GI食品(糖質): 砂糖、精製された小麦粉、甘い飲料など
  • 乳製品: 牛乳、チーズなど(特に脱脂粉乳などは影響が大きいというデータも)
  • グルテン: 小麦製品に含まれるタンパク質

つまり、皮脂をコントロールしたいのであれば、外から水分を足すことよりも、「ホルモン」や「食事」といった内側のアプローチが必要不可欠なのです。

3. 「オイリーなのに乾く」その正体は?

「先生、でも私は本当に洗顔後に肌が突っ張るんです。でもお昼にはテカテカなんです」
そう訴える患者さんは非常に多いです。

皮脂が十分に出ている(あるいは過剰に出ている)のに「乾燥している」と感じる。
この現象の正体は、単なる水分不足ではありません。**「バリア機能の破綻」と「微細な炎症」**です。

ケースA:常在菌バランスの崩れと「蠕形ダニ」

オイリー肌の方の皮膚上には、皮脂を餌とする微生物がたくさん住んでいます。
代表的なのがアクネ菌マラセチア菌、そして**「蠕形(ぜんけい)ダニ(顔ダニ)」**です。

オイリー肌の方は、これらの微生物にとって「食べ放題」の状態です。
特に顔ダニ(デモデックス)が増殖すると、毛穴の中で炎症を引き起こします。また、皮脂が酸化して生じる過酸化脂質も肌を刺激します。

この「目に見えない微細な炎症」が起きると、どうなるでしょうか?
皮膚のバリア機能が壊れ、角質層がめくれ上がります。すると、本来肌内部にあるべき水分が蒸発しやすくなります(経皮水分蒸散量の増加)。
「脂は出ているのに、肌のキメが荒れて水分を保持できない」
これが、あなたが感じている「乾燥」の正体です。

ケースB:過剰なスキンケアによる「接触性皮膚炎」

「乾燥するから」といって、何種類もの美容液、乳液、クリーム、シートマスクを使っていませんか?
化粧品には、有効成分だけでなく、防腐剤や界面活性剤、香料など、数百種類の化学物質が含まれています。
バリア機能が弱っている肌にこれらを多用すると、**慢性的な接触性皮膚炎(かぶれ)**を起こすことがあります。
赤みや痒みが出る前の、「なんだか肌がゴワつく」「化粧水が染みる」といった感覚も、実は炎症のサインなのです。

ケースC:感覚的な「依存」

これは心理的な側面ですが、幼い頃から「保湿=肌がペタペタする状態」と刷り込まれている場合です。
本来、健康な肌はサラッとしています。しかし、重たいクリームの被膜感に慣れてしまうと、それを塗らないだけで「乾燥している」と脳が錯覚してしまうことがあります。
これは肌の乾燥ではなく、**「保湿剤への依存」**と言えるでしょう。

4. 誤った保湿が招く「肌トラブルの連鎖」

「オイリー肌だけど乾燥を感じるから、濃厚なクリームを塗る」
この行為は、火に油を注ぐようなものです。

  • 微生物の培養: 油分の多いクリームは、アクネ菌や顔ダニの格好の餌になります。
  • 毛穴の閉塞: 過剰な油分は毛穴を塞ぎ、新たなニキビの原因になります。
  • ターンオーバーの乱れ: 不要な角質が剥がれ落ちるのを妨げ、くすみやゴワつきを助長します。

結果として、**「塗れば塗るほど、炎症が悪化し、さらに乾燥(バリア機能低下)を感じる」**という負のスパイラルに陥ってしまうのです。

5. 医師が提案する「本当に正しいオイリー肌対策」

では、どうすればこの悪循環を断ち切れるのでしょうか?
高価な化粧品を買い足す前に、以下のステップを実践してください。

STEP 1:自分の肌質を客観視する

まず、自分が本当に「乾燥肌」なのか「オイリー肌」なのかを見極めましょう。
洗顔後、何もつけずに1〜2時間放置してみてください。
もし、Tゾーンや頬から油分が浮いてきて、テカテカしてくるなら、あなたは間違いなくオイリー肌(脂性肌)です。その時に感じるツッパリ感は、乾燥ではなく「炎症」や「キメの乱れ」です。

STEP 2:内側からのコントロール(食事・治療)

皮脂そのものを減らすには、内側からのアプローチが最強です。

  • 食事改善: 砂糖、お菓子、乳製品、揚げ物を2週間断ってみてください。これだけで劇的に皮脂量が減る患者さんもいます。
  • 医療機関での治療:
    • イソトレチノイン(内服A酸): 皮脂腺を劇的に縮小させる強力な薬です。(※日本では保険適用外の自由診療となりますが、重症ニキビや過剰皮脂には世界的なスタンダード治療です)
    • ホルモン療法: 低用量ピルやスピロノラクトンなどで、アンドロゲンの影響を抑える方法もあります。

STEP 3:スキンケアは「引き算」で

オイリー肌の方に必要なのは、「与える」ことではなく「取り去る」こと、そして「邪魔をしない」ことです。

  • 洗顔: 朝晩、優しく泡で洗顔し、酸化した皮脂や微生物をリセットします。「朝はぬるま湯だけ」は、オイリー肌には向きません。
  • 保湿: 「水っぽいもの」だけで十分です。化粧水や、ノンコメドジェニックの軽いジェル乳液などを選びましょう。油分の多いクリームやオイルは不要です。
  • あぶらとり紙を使う: 「あぶらとり紙を使うと、余計に脂が出る」というのも都市伝説です。酸化した皮脂を肌に残しておく方が害悪です。テカってきたら、優しく押さえるように油分を取り除いてください。
  • パウダーの活用: 皮脂吸着成分の入ったパウダーで物理的にサラサラに保つことも、微生物の増殖を抑えるのに有効です。

STEP 4:皮膚の炎症を治す

「乾燥感(実は炎症)」が強い場合は、保湿剤ではなく、皮膚科で適切な抗炎症薬(ステロイド外用薬など医師の指示によるもの)や、バリア機能を修復する医薬品を使用する必要があります。
「保湿すれば治る」と思わず、皮膚のSOSサインだと捉えて受診してください。


最後に:あなたの肌は、もっとシンプルでいい

私たちは、あまりにも多くの情報に踊らされ、「何かを塗らなければ肌は美しくならない」と思い込まされています。
しかし、皮膚は本来「排泄器官」であり、何かを吸収する器官ではありません。

ご自身の肌が本来持っている「皮脂」という天然のクリームの量は、遺伝子レベルで決まっています。それを無理やり化粧品で抑え込んだり、逆に上から塗り固めたりすることは、肌の生理機能を無視した行為です。

もしあなたが今、溢れる皮脂と、それでも感じる乾燥感に悩んでいるなら、一度立ち止まってみてください。
足し算のケアをやめ、肌の生理機能に基づいたシンプルなケアに戻ること。
そして、必要であれば医療の力を借りて、ホルモンや炎症のコントロールを行うこと。

それが、遠回りのようでいて、美肌への一番の近道なのです。

あなたの肌悩みが、正しい知識によって解消されることを心から願っています。

三木 拝


瘋狂設計師 Chris
三木医師
総合診療科医・三木が築く**「健康防衛砦」。病気から身を守る最新医療の知識と、体を内側から強くする漢方・美容の知恵を公開。ゆるぎない生命力**の土台を共に作り上げます。