こんにちは、総合診療科医の三木です。
日々の診察の中で、多くの患者さんから「肌」に関する切実な悩みを聞く機会があります。「高価な保湿クリームを塗っているのに、ニキビが治らない」「乾燥するから保湿しているのに、時間が経つとテカテカになる」……。そんな声を聞くたびに、私は現代の「保湿信仰」が、いかに多くの人の肌を本来の美しさから遠ざけてしまっているかを痛感します。
今回は、美容皮膚科学、そして私たちが本来持っている「自己治癒力」の観点から、保湿の真実についてお話ししようと思います。この記事を読み終える頃には、あなたのスキンケアの常識が180度変わっているかもしれません。
保湿は本当に「正義」なのか? 総合診療医が教える肌の真実
「肌をきれいにしたければ、とにかく保湿!」
テレビや雑誌、SNSでは、呪文のようにこの言葉が繰り返されています。しかし、総合診療医としての私の視点は少し異なります。実は、世の中の約80%の人は、いわゆる「脂性肌(オイリー肌)」の傾向があり、本来、過剰な保湿は必要ありません。
むしろ、過度な保湿が毛穴を塞ぎ、ニキビを悪化させ、肌本来の力を奪っているケースが非常に多いのです。あなたは「保湿をしないと肌がボロボロになる」という恐怖心に、スキンケアブランドによって支配されてはいませんか?
なぜあなたの肌は「乾く」と感じるのか
まず、基本的な体の仕組みを思い出してください。成人の体の約60%は「水」でできています。血液、リンパ液、臓器……私たちの体の中は、常に豊かな水分で満たされています。
肌の潤いも、実は「外から足すもの」ではなく「内側から湧き出すもの」なのです。
私たちの皮膚には、本来、驚くべき保湿メカニズムが備わっています。
- NMF(天然保湿因子): 角質層の中で水分を抱え込む、天然の潤い成分。
- GAGs(糖アミノ多糖): 真皮層にあるスポンジのような物質(ヒアルロン酸など)。血管から吸い上げた水分を保持し、表皮へと押し上げます。
- 皮脂膜: 肌表面を覆う天然のバリア。
生まれたての赤ちゃんの肌を思い出してください。彼らは保湿クリームなんて塗っていなくても、モチモチでプルプルですよね? それは、内側から水分を吸い上げ、保持する力が最大に働いているからです。
しかし、私たちは大人になるにつれ、このシステムを「怠けさせて」しまう習慣を身につけてしまいます。それが「過剰な保湿」です。
生体恒常性(ホメオスタシス)の罠:塗りすぎが肌を殺す
生物には「ホメオスタシス(生体恒常性)」という、状態を一定に保とうとする機能があります。
外から油分や水分を過剰に補給し続けると、脳と肌はこう判断します。
「おや、外から十分な潤いが供給されているぞ。じゃあ、自前でNMFや皮脂を作る必要はないな」
こうして、肌自らが潤いを作り出すスイッチを切ってしまうのです。これが「保湿依存症」の正体です。塗れば塗るほど、肌の自活機能は衰え、さらに塗らないと乾燥を感じる……という、終わりのない悪循環に陥ってしまうのです。
脂性肌のあなたが「保湿」を今すぐやめるべき理由
「自分は乾燥肌だ」と思い込んでいる方の多くが、実は「インナードライ(内側が乾燥し、表面が油っぽい状態)」、あるいは単純な「脂性肌」です。
もしあなたがニキビに悩んでいるのなら、今使っている保湿製品が原因である可能性を疑ってください。保湿剤に含まれる油分(エモリエント成分)は、アクネ菌の大好物です。
- 痛点: 鏡を見るたびに増える赤ニキビ。隠そうとして厚塗りし、さらに悪化する。
- 渴望: フィルターなしの自撮りに耐えられる、陶器のような滑らかな肌。
- 焦慮: 「このまま一生、ニキビ跡と付き合っていくのか?」という将来への不安。
脂性肌の人にとって、保湿を頑張ることは、火に油を注ぐようなものです。肌が求めているのは「蓋をすること」ではなく、余分なものを取り除き、肌のターンオーバーを正常化させることなのです。
本当に乾燥しているなら「塗る」より「刺激(覚醒)」を
では、加齢や紫外線の影響で、本当に潤う力が衰えてしまった「真の乾燥肌」の人はどうすればいいのでしょうか。
私は、単に水分や油分を「補給」するだけのスキンケアはおすすめしません。必要なのは、眠っている肌の細胞を叩き起こす**「刺激(Stimulation)」**です。
具体的には、**ビタミンA誘導体(レチノールやトレチノイン)**などの成分を活用すること。
これらは、一時的な不快感(赤みや皮剥けなど、いわゆるA反応)を伴うことがありますが、それこそが「細胞が再生しようとしている証拠」です。細胞に活を入れ、自らGAGs(ヒアルロン酸など)を生成させ、角質層を健康な状態に整える。これこそが、本質的なスキンケアです。
安易な保湿で「その場しのぎ」の心地よさを求めるか、少しの試練を乗り越えて「一生モノの自立した肌」を手に入れるか。あなたはどちらを選びますか?
保湿剤は「常用薬」ではなく「救急箱」であるべき
もちろん、保湿が100%悪だと言っているわけではありません。総合診療医として、保湿を推奨するケースもあります。
それは、肌が**「急性的なダメージ」**を受けている時です。
- 強い日差しで日焼けしてしまった。
- 強い風にさらされ、肌がひび割れてしまった。
- 湿疹や接触性皮膚炎(かぶれ)が起きている。
- 美容治療(レーザーやピーリング)の直後でバリア機能が低下している。
これらは、肌という「防壁」が壊れている状態です。この時ばかりは、ワセリンや低刺激の乳液などで一時的に保護し、治癒を助ける必要があります。
しかし、覚えておいてください。保湿剤は「薬」であって「主食」ではありません。怪我が治れば絆創膏を剥がすように、肌が落ち着けば過剰な保湿からは卒業すべきなのです。
肌質別・スキンケア戦略の比較表
あなたの今の状態に合わせて、どのようなアプローチが必要かを整理しました。
| カテゴリ | 特徴・悩み | 推奨されるアプローチ | 避けるべきこと |
| 脂性肌・ニキビ肌 | テカリ、毛穴の詰まり、頻繁なニキビ。 | 洗顔を丁寧に。角質ケア(AHA/BHA)でターンオーバーを促進。 | オイル、こってりしたクリーム、重ね塗り。 |
| インナードライ肌 | 表面はベタつくが、洗顔後に突っ張りを感じる。 | 水分保持能力を高めるビタミンAケア。内側からの水分補給(多めの飲水)。 | 過度な油分補給(これがインナードライを助長します)。 |
| 加齢・真の乾燥肌 | 全体的にカサつき、ハリがなく、小じわが目立つ。 | レチノール等による「細胞の活性化」。良質なタンパク質と脂質の摂取。 | 表面だけを潤わせる「保湿パック」への依存。 |
| 急性ダメージ肌 | 日焼け、炎症、激しい肌荒れ。 | 医師の処方薬、またはワセリン等による一時的な保護。 | 刺激の強い成分(美白成分など)の使用。 |
美しい肌は「引き算」と「内側」から作られる
最後に、栄養学の観点からも一言。肌は、あなたが食べたものでできています。
保湿クリームに1万円かけるなら、その1万円で「放牧豚のコラーゲン」や「新鮮なオーガニック野菜」、そして肌のバリアを形成する「良質なオメガ3脂肪酸(魚油やエゴマ油)」を買ってください。
また、東洋医学では「肺は皮毛を司る」と言います。深い呼吸をし、肺を健やかに保つこと、そして腸内環境を整えることは、どんな高級美容液よりもあなたの肌を輝かせます。
総合診療医・三木からのメッセージ
あなたが今、鏡の前で感じている絶望は、実は「やりすぎ」から来ているのかもしれません。
「もっと塗らなきゃ」「もっとケアしなきゃ」という強迫観念を一度捨ててみませんか?
肌は、あなたが信じている以上に賢く、力強いものです。
その力を信じ、最小限のサポートに留める。
それこそが、私が提唱する「自立した美肌」への最短ルートです。
あなたの肌が、本来の輝きを取り戻す日を心から願っています。
