こんにちは、三木(Miki)です。
今日は、多くの患者さんが悩み、そして多くの治療家が見落としがちな**「膝の痛み」の本当の正体**について、少し専門的、かつホリスティック(包括的)な視点からお話ししようと思います。
もしあなたが、「膝が痛くてヒアルロン酸注射を続けているけれど、またすぐに痛くなる」「湿布やサポーターで誤魔化している」という状況なら、この記事はあなたのためのものです。
実は、膝の痛みというのは、膝そのものが「悪者」なのではなく、**「被害者」**であることがほとんどなのです。今日はそのメカニズムを、解剖学と東洋医学の両面から紐解いていきましょう。
1. 膝は「被害者」であるという視点
整形外科に行くと、レントゲンを撮って「軟骨がすり減っていますね」「変形性膝関節症ですね」と言われ、膝に電気を当てたり、注射を打ったりします。もちろん、炎症を抑える対症療法として、それは間違いではありません。
しかし、ここで一つ考えてみてください。 なぜ、あなたの膝の軟骨はすり減ってしまったのでしょうか?
実は、膝の痛みの本質的な原因は、太もも(大腿骨)とすね(下腿骨)の間に生じる**「ねじれ(Twist)」**にあります。
私はよく患者さんに**「雑巾絞り」の例え話をします。 濡れたタオルや雑巾をイメージしてください。上端と下端を持って、逆方向にギュッと絞ります。この時、一番圧力がかかり、繊維が悲鳴を上げているのはどこでしょうか? そう、「真ん中」**ですよね。
人間の脚で言うと、**「真ん中」にあたるのが「膝関節」**なのです。
股関節(上端)と足首(下端)が逆方向にねじれるような力が加わり続けている状態で、真ん中の膝だけを治療しても、それは「雑巾を絞り上げたまま、真ん中の繊維を修理しようとしている」のと同じです。 ねじれ(原因)を取らずに、痛み(結果)だけを消そうとしても、またすぐに再発するのは当たり前のことなのです。
2. なぜ体は脚を「ねじり」たがるのか?
では、なぜ私たちの脚はそんな風にねじれてしまうのでしょうか? 「体が歪んでいるから」の一言で済ませることもできますが、もう少し深掘りしましょう。
実は、**「ねじれ」は体が安定性を求めた結果の「代償動作」**なのです。
再び雑巾を想像してください。フニャフニャのタオルも、ギュッと絞って硬くすると、棒のように硬く、安定しますよね? 体も同じです。本来、脚を支えるべき土台が不安定になっているため、脳が無意識に「脚をねじって固めろ!」と指令を出し、無理やり安定感を作り出しているのです。
つまり、膝が痛いということは、**「体のどこか別の場所が不安定になっている」**というSOSサインなのです。
その「不安定な場所」の犯人は、主に以下の2つです。
- 足裏・足首(土台)
- お尻・骨盤底筋(屋根)
この上下の2点がグラグラしているから、真ん中の膝をねじって固めるしかないのです。
3. 下からの崩壊:足裏と「ニーイン」の恐怖
まず、下からの影響を見てみましょう。現代人の多くは、足の指が使えていません。 外反母趾、浮き指、扁平足……これらは単なる足の形の悩みではありません。
足のアーチ(土台)が潰れると、かかとの骨(踵骨)や足首の骨(距骨)が内側に倒れ込みます。 すると、連動してすねの骨(脛骨)が内側にねじれます。 しかし、歩く時には前を向く必要があるため、太ももの骨は外側へ行こうとしたり、あるいは逆に過剰に内側へ入ったりします。
これが典型的な**「Knee-in Toe-out(ニーイン・トゥーアウト)」**という状態です。膝が内側に入り、つま先が外を向く。このねじれこそが、膝の軟骨をすり減らす最大の物理的ストレスです。
「昔、酷い捻挫をしたことがある」という方は特に要注意です。痛みは消えても、足首の関節の噛み合わせがズレたままになっており、そこからドミノ倒しのように膝への負担が始まっているケースが非常に多いのです。
4. 上からの崩壊:デスクワークとお尻の健忘症
次に、上からの影響です。これは現代病とも言えますが、デスクワークによる**「座りすぎ」**が原因です。
長時間座りっぱなしでいると、お尻の筋肉(大殿筋・中殿筋)や、骨盤の底を支える「骨盤底筋群」が圧迫され続け、スイッチが入らなくなります。私はこれを**「お尻の健忘症(Gluteal Amnesia)」**と呼んだりします。
お尻の筋肉は、太ももの骨を正しい位置に保つための強力なサポーターです。ここが緩んでサボってしまうと、太ももの骨を制御できなくなり、内側にねじれてしまいます。 また、骨盤底筋の緩みは、女性であれば尿もれなどの悩みにも直結しますが、実は膝の安定性とも深く関わっているのです。
5. 膝の内側が痛い人 vs 外側が痛い人
臨床経験上、痛む場所によってアプローチすべき優先順位が異なります。
- 膝の内側や裏側が痛い場合: 「下からの突き上げ」が原因であることが多いです。つまり、足首の倒れ込みや扁平足が主犯格です。まずは足指のトレーニング(タオルギャザーなど)や、インソールで足裏のアーチを確保することが近道です。
- 膝の外側が痛い場合: 「上からの崩れ」が原因であることが多いです。お尻の筋肉の機能不全や、さらにその上、上半身の姿勢の悪さが影響しています。 特に、右膝の外側が痛む方は、上半身の質量中心のズレが関係しているケースが目立ちます。利き手(右手)を使いすぎて右肩が前に入り、肋骨がねじれ、それが骨盤を引っ張り、最終的に太ももの外側の靭帯(腸脛靭帯)をパンパンに張らせてしまう……という、全身を使った壮大な「ねじれ連鎖」が起きていることがあります。
6. 東洋医学(漢方)的視点で見る「腎」と「肝」
ここからは少し、私の専門分野でもある東洋医学の視点を交えてお話ししましょう。 「膝の痛みは老化だから仕方ない」と言われますが、東洋医学ではこれを**「腎虚(じんきょ)」や「肝虚(かんきょ)」**という言葉で説明します。
- 腎(じん): 生命エネルギーの貯蔵庫。「骨」や「髄」を司ります。足裏にある「湧泉(ゆうせん)」というツボは腎経のスタート地点です。足腰が弱る、足裏が踏ん張れないというのは、この「腎」のエネルギー(バッテリー)が枯渇しているサインです。
- 肝(かん): 筋肉や腱(筋膜)を司ります。また、自律神経やストレスとも深く関わります。股関節周りや生殖器周辺には「肝経」のルートが通っています。
先ほど、「足裏(土台)」と「骨盤底(屋根)」が大事だと言いましたが、これはまさに東洋医学でいう「腎」と「肝」の領域と一致します。
ストレス過多や睡眠不足、加齢によって「気(エネルギー)」が不足すると、体を支えるインナーマッスル(肝・腎の領域)に力が入らなくなります。 **「気が抜ける」**という言葉通り、エネルギー不足が物理的な姿勢の崩れ(脱力)を招き、その結果として、不安定になった体を支えるために膝をねじらざるを得なくなるのです。
ですから、慢性的な膝痛に対して、漢方薬で「補腎(腎を補う)」や「疎肝(気の巡りを良くする)」治療を行うと、不思議と膝の痛みが引いていくことがあります。これは、エネルギーレベルが回復し、足裏やお尻に自然と力が入るようになり、結果として「ねじれ」の必要性がなくなるからです。
7. 結論:膝を救うために、膝以外を見よう
長くなりましたが、結論をお伝えします。
あなたの膝の痛みを治すために必要なのは、膝への湿布やマッサージだけではありません。 以下の3つのステップを意識してみてください。
- 足指・足裏を鍛える: 足の指でグーチョキパーができますか?足裏の感覚を取り戻し、大地をしっかり掴めるようにしましょう。これが「ねじれ」を防ぐ最初の砦です。
- お尻を目覚めさせる: 座りっぱなしをやめ、お尻の穴をキュッと締める感覚や、股関節を正しく使うエクササイズを取り入れましょう。
- 全身の連動性を高める: 膝は、足首と股関節の中継地点です。上下の関節がスムーズに動けば、膝は自然と楽になります。
膝の痛みは、体からの**「使い方が間違っているよ」「エネルギーが漏れているよ」**という愛のあるメッセージです。 その声に耳を傾け、局所だけでなく、体全体(ホリスティック)な視点でケアをしてあげてください。
「木を見て森を見ず」にならぬよう、自分の体の「森(全体像)」を大切にしていきましょう。
三木でした。
