こんにちは、皆さまの健康を親身にサポートする総合診療医の「三木(Miki)」です。
日々の診察室で、患者様から最も多く寄せられる悩みの一つ。それは間違いなく**「高血圧」**についてです。
「先生、健康診断で血圧が高いと言われました。一生、薬を飲み続けなければならないのでしょうか?」
「薬を飲んでいるのに、なんだか体がだるいんです。めまいもするし……」
そんな不安を抱えた患者様の顔を見るたびに、私は医師として心を痛めると同時に、現代医療が抱えるある種の「矛盾」を感じざるを得ません。
日本では現在、高血圧患者数が約4300万人と言われています。実に国民の3人に1人が高血圧という計算です。しかし、その治療の多くは「数字を下げること」だけに焦点が当てられ、「なぜ血圧が上がっているのか?」という根本原因が見過ごされがちです。
今日は、あなたのかかりつけ医として、少し踏み込んだお話をさせてください。
それは、**「高血圧は病気ではなく、体からのSOSサインである」**という視点です。
薬で無理やり数値を下げることが、かえってあなたの健康を害しているとしたら?
塩分を控えることよりも、もっと大切な「引き算」があるとしたら?
この記事では、長年の臨床経験と最新の知見に基づき、高血圧の裏に潜む「真犯人」を暴き、薬に頼らずに体を整えていくための具体的なアプローチを、5000文字を超えるボリュームで徹底的に解説します。
あなたの体の中で起きている「血流のドラマ」を、一緒に紐解いていきましょう。
1. 高血圧は「病気」ではなく「症状」である
まず、皆さまにどうしてもお伝えしたい大前提があります。
それは、**「高血圧そのものは病気の名前ではなく、何らかの原因によって引き起こされた『症状』に過ぎない」**ということです。
発熱と同じメカニズム
風邪をひいたときの「発熱」を想像してください。ウイルスと戦うために、体はあえて体温を上げます。この時、解熱剤で熱だけを下げても、ウイルスがいなくなるわけではありませんよね?むしろ、戦う力を削いでしまうことさえあります。
血圧もこれと同じです。
体の中のどこか(脳や手足の末端、あるいは腎臓など)に血液が届きにくくなっているからこそ、心臓はポンプの圧力を上げて、必死に血液を送り届けようとしているのです。
つまり、高血圧は**「体を守るための防衛反応」**という側面があるのです。
「原因」を取り除かずに「結果」だけを変える危険性
それなのに、なぜ血圧が上がっているのか(=血管が詰まっているのか、血液がドロドロなのか、ストレスなのか)という原因を探らず、降圧剤で圧力だけを下げてしまったらどうなるでしょうか?
当然、必要な場所に血液が届かなくなります。
「薬を飲んで数値は正常になったけれど、ふらつきが止まらない」「手足が氷のように冷たい」「頭がぼーっとする」
これらは、薬が効きすぎて血流不全に陥っている典型的なサインかもしれません。
2. その「降圧剤」、本当に必要ですか?薬のリスクを知る
私は決して「薬は絶対悪だ」と言いたいわけではありません。脳出血や心不全のリスクが差し迫っている緊急時には、降圧剤は命を救う素晴らしいツールです。
しかし、漫然と、そして過剰に処方され続ける現状には警鐘を鳴らさなければなりません。
「血圧130」の落とし穴
近年、高血圧の基準値が厳格化され、「収縮期血圧(上の血圧)130mmHg以上は高血圧」とされる傾向があります。しかし、年齢を重ねれば血管は硬くなり、全身に血を巡らせるために血圧が多少上がるのは自然な生理現象です。
特に高齢者の場合、無理に130以下や120以下に下げすぎると、以下のリスクが激増します。
- 起立性低血圧: 立ち上がった瞬間に脳への血流が不足し、転倒や失神を引き起こします。高齢者の転倒は、骨折から寝たきりにつながる重大な事故です。
- 末梢循環不全(壊死): 手足の先まで血液が届かず、冷え性が悪化。最悪の場合、組織が壊死して切断に至るケースも報告されています(「黒い足指」現象)。
- 認知機能の低下: 脳への血流不足は、認知症のリスク因子となり得ます。
拡張期血圧(下の血圧)の意味
血圧を見る時、上(収縮期)ばかり気にしていませんか? 実は、下(拡張期)の血圧こそが、体内の水分量や塩分貯留の状態を表す重要な指標です。
下の血圧が95〜100mmHgを超えている場合、それは血管の抵抗というより、体の中に水が溜まりすぎている(溢れている)状態を示唆しています。この場合に必要なのは、血管を広げる薬ではなく、余分な水分を排出することなのです。
3. 医師が見抜く「高血圧の3大真犯人」
では、あなたの血圧を上げている「真の原因」は何なのでしょうか?
遺伝や加齢だけで片付けてはいけません。生活習慣の中に潜む、3つの大きな要因があります。
真犯人①:インスリン抵抗性(内臓脂肪と糖質過多)
「高血圧=塩分の摂りすぎ」と思っていませんか? 実は、それ以上に影響が大きいのが**「糖質の摂りすぎ」**です。
お菓子、果物、炭水化物を食べ過ぎて内臓脂肪が増えると、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きが悪くなります(インスリン抵抗性)。
体はそれを補うためにインスリンを大量に分泌するのですが、このインスリンには**「腎臓に働きかけて、塩分(ナトリウム)と水分を体内に溜め込む」**という作用があるのです。
つまり、**「糖質過多 → インスリン過剰分泌 → 水分貯留 → 血液量増加 → 高血圧」**という図式です。
このタイプの高血圧の方は、いくら減塩しても血圧は下がりません。内臓脂肪を減らし、インスリンレベルを下げることが唯一の解決策です。
真犯人②:姿勢の悪さと呼吸の浅さ(脊椎の歪み)
現代人に多いのがこのタイプです。スマホやパソコン作業で猫背になり、背骨が歪んでいませんか?
背中が丸まると、胸郭(肋骨)が圧迫され、肺が十分に広がりません。すると呼吸が浅くなり、取り込める酸素量が減ります。
体は酸素不足(酸欠)を感知すると、命を守るために「もっと血液を回して酸素を届けろ!」と指令を出し、心拍数を上げ、血圧を上昇させます。
「姿勢が悪い → 酸欠 → 高血圧」。
この場合、薬を飲むよりも、背筋を伸ばして深呼吸をする方が、よほど理にかなった治療と言えるのです。
真犯人③:末梢の冷え(自律神経の乱れ)
手足が冷たい人は、血管がキュッと収縮しています。末梢の血管が縮まれば、逃げ場を失った血液は体の中心部に集まり、中心血圧が上昇します。
特に秋から冬にかけて血圧が上がる方は、このタイプが多いです。靴下を履く、入浴する、運動するなどして末梢血管を開いてあげれば、ポンプ(心臓)の圧力は自然と下がります。
4. 減塩よりも大切?「ミネラルバランス」の新常識
ここで、食事療法における大きな誤解を解いておきましょう。
「高血圧だから塩は敵だ!」と、極端な減塩をしている方がいますが、これは時に危険です。
減糖(糖質制限)時には「塩」が必要
先ほどお話ししたように、高血圧の根本原因が「インスリン抵抗性」にある場合、糖質制限(ロカボ)やファスティング(16時間断食)が非常に有効です。
しかし、糖質を制限してインスリンレベルが下がると、腎臓は今まで溜め込んでいた水分とナトリウム(塩分)を一気に排出し始めます。
この時、塩分を補給せずに水ばかり飲んでいると、体内のナトリウム濃度が薄まりすぎ(低ナトリウム血症)、頭痛、めまい、こむら返り、脱力感などを引き起こします。
「糖質を控えるなら、良質な塩分は適度に摂る」。
これが、体を壊さないための新しい常識です。精製塩ではなく、マグネシウムやカリウムを含んだ「天然塩」を選ぶことがポイントです。
5. 三木医師直伝!薬に頼らない「血圧リセット」メソッド
それでは、具体的にどうすればいいのか。今日から自宅でできる、副作用ゼロの「処方箋」をお出しします。
① 「16時間断食(プチ断食)」でインスリンを休ませる
まずは内臓脂肪を落とし、インスリンの過剰分泌を止めましょう。
朝食を抜く、あるいは夕食を早めに済ませるなどして、空腹の時間を1日16時間(睡眠時間含む)作ります。これにより、体内の水分貯留が解消され、驚くほど血圧が下がることがあります。
(※糖尿病の薬を飲んでいる方は、低血糖のリスクがあるため必ず主治医と相談してください)
② 1日10分の「和平(ホーピン)体操」
これは、脊椎を整え、末梢循環を改善し、自律神経を整える最強の運動です。
- 足指で地面を掴む: 裸足になり、足の指で地面をギュッと掴むように立ちます。
- バンザイと背伸び: 両手を大きく上へ挙げ、同時にかかとを上げてつま先立ちになります。
- 肩甲骨を寄せる: 手を挙げたまま、背中の肩甲骨をグッと寄せ、胸を大きく開きます。
- 脱力と発声: 一気に力を抜いてかかとをストンと落とし、同時に**「ホー!」「ピン!」「ナー!」**と大きな声を出して息を吐き切ります。
- ※「ホーピン(和平)」は平和、「ナー」はそれを受け入れるという意味の言葉ですが、日本語では「ハッ!」「フッ!」などの発声でも構いません。重要なのは横隔膜を使って息を吐くことです。
これを1セットとし、1日5〜10回行います。
かかとの衝撃が骨を刺激し、背伸びが胸郭を広げ、発声がストレスを解放します。全身の血流がドッと良くなるのを感じられるはずです。
③ 「ふくらはぎ」と「首」を温める
「第二の心臓」と呼ばれるふくらはぎを温めることで、下半身に滞った血液が心臓に戻りやすくなります。レッグウォーマーの着用や、夜の足湯が効果的です。
また、首の後ろを温めることは自律神経(副交感神経)を優位にし、血管をリラックスさせる効果があります。
結びに:人生100年時代、目指すべきは「薬からの卒業」
いかがでしたでしょうか。
高血圧という現象の裏には、あなたの生活習慣や体の使い方の「癖」が隠れています。
薬は、その「癖」を治してはくれません。数値をマスクして見えなくしているだけです。
「血圧が下がったから治った」と安心するのではなく、「なぜ上がったのか?」をご自身の体に問いかけてみてください。
お腹周りがスッキリした。姿勢が良くなった。手足がポカポカする。
そういった体質の変化の先にこそ、本当の意味での「血圧の安定」が待っています。
私たちの最終的な目標は、患者様が薬を手放し、病院に通わなくても元気に過ごせるようになること(=医師からの卒業)です。
今日のお話が、その第一歩となれば幸いです。
焦らず、一つずつ。あなたの体は、必ず応えてくれますよ。
