皆さん、こんにちは。三木(Miki)です。
突然ですが、あなたは人からこんなことを言われた経験はありませんか?
「ねえ、肩の力抜きなよ」 「なんでそんなに肩が上がってるの? 緊張してる?」
自分ではリラックスしているつもりなのに、鏡を見ると常に肩が耳に近づいている。 あるいは、意識して肩を下げても、気づくとまたギュッと縮こまっている……。 いわゆる**「いかり肩」や「すくみ肩」**の状態です。
「リラックスしなきゃ」「力を抜かなきゃ」と自分を責めてしまう方も多いのですが、実はこれ、あなたの努力不足ではありません。 医学的・身体構造的な視点から見ると、あなたの身体は**「あえて肩を上げざるを得ない理由」**があって、必死にその状態をキープしている可能性があるのです。
今日は、単なる肩こりの話ではありません。 その「上がった肩」が必死に伝えようとしている、呼吸、胃腸、そして深層心理からのSOSについて、深く掘り下げてお話ししていきましょう。
なぜ、身体は「肩をすくめる」ことを選ぶのか?
まず大前提として、人間の身体は**「自分にメリットのないことは絶対にしない」というルールがあります。 一見、不快でしかない「肩こり」や「いかり肩」であっても、身体の深層部(ベースライン)では、それが「生きるために必要な最善策」**だから選んでいるのです。
動画の解説に基づくと、身体が肩をすくめることには、主に3つの「隠されたメリット」が存在します。
- 呼吸のスペースを確保するため(代償呼吸)
- 頭部を安定させるため(体幹の代用)
- 心理的な防衛本能(シェルター機能)
これらを一つずつ紐解いていくと、あなたの身体の中で起きているドラマが見えてきます。
理由①:呼吸が浅いから、肩で息をするしかない
これが最も意外で、かつ最も多い原因です。 実は、肩が上がっている人の多くは、**「肺が十分に広がっていない」**状態にあります。
私たちの胸郭(肋骨の鳥かご)は、本来「ふいご」のようなものです。 息を吸う時、本来であれば横隔膜が下がり、お腹が膨らむ(腹式呼吸)ことで、肺の下部まで空気が入り込みます。さらに肋骨が外側に広がることで、たっぷりと酸素を取り込める設計になっています。
しかし、もし何らかの理由で**「横隔膜が下に下がれない」**としたらどうなるでしょうか?
身体は酸素不足になり、苦しくなりますよね。そこで脳は緊急指令を出します。 「下に行けないなら、上に行くしかない!」
これが、肩呼吸(努力性呼吸)の始まりです。 鎖骨や肩甲骨周辺の筋肉を総動員して、胸郭全体を無理やり上に引き上げることで、わずかながら肺の容積を広げようとします。 つまり、あなたの肩こりは、**「酸素を取り込むための必死の努力」**の結果なのです。
「胃腸の不調」が肩を上げる?
では、なぜ横隔膜が下がらないのでしょうか? ここで驚きの犯人が登場します。それは**「胃腸」**です。
胃腸の調子が悪かったり、消化不良でガスが溜まっていたり、ストレスで内臓が硬くなっていると、お腹の中(腹腔)はパンパンに張った硬いボールのようになります。 横隔膜が下がろうとしても、下の胃腸が硬すぎて邪魔をし、降りていけないのです。
中医学的にも、胸のつかえや呼吸の浅さを治療する際に、心臓や肺の薬ではなく、「枳実(きじつ)」や「厚朴(こうぼく)」といった胃腸薬を使うことがあります。これは、胃腸の通りを良くして横隔膜を動かしやすくすることで、結果的に呼吸を深くするためです。
「肩こりがひどい時は、実はお腹が張っている」 この事実に気づくだけでも、アプローチは大きく変わります。肩を揉むよりも、消化の良いものを食べてお腹を休める方が、肩がストンと落ちることもあるのです。
理由②:神経と血管の通り道「鎖骨の隙間」を広げたい
もう一つ、身体構造的な視点で重要なのが、**「鎖骨上のスペース(欠盆)」**の問題です。
首の付け根から鎖骨にかけてのエリアは、脳から腕へと続く重要な神経や血管が束になって通る、非常にデリケートなジャンクションです。 現代人の多くは、姿勢の悪さや筋膜の癒着により、このスペースがギュッと潰れてしまっています。
こうなると、神経や血管が圧迫され、腕のしびれや冷えといった症状が出始めます。 そこで身体はどうするか? **「肩を上げれば(すくめれば)、一時的に隙間が広がる!」**と学習するのです。
皆さんも、傘を開く時のことをイメージしてみてください。傘の骨(肋骨や鎖骨)が閉じていると窮屈ですが、グッと持ち上げると中の空間が広がりますよね。あれと同じことを身体がやっているのです。
「万歳寝(バンザイ寝)」は危険信号!
このタイプの人の特徴として、**「寝る時に両手を挙げて(バンザイして)寝る」**という癖がよく見られます。 これを「投降(サレンダー)ポーズ」とも呼びますが、無意識に腕を上げることで鎖骨周りのスペースを確保し、圧迫を逃がそうとしているサインです。
もしあなたが、寝起きに手が痺れていたり、気づくとバンザイして寝ているなら、それは「肩をすくめていないと神経が圧迫されてしまうほど、身体の構造が詰まっている」というSOSかもしれません。
理由③:頭を支えるための「松葉杖」としての肩
3つ目の理由は、**「体幹(腹圧)の弱さ」**です。
本来、重たい頭(約5kg)を支えるのは、背骨と、それを下から支える**「腹圧(お腹の風船)」**の役目です。 お腹にしっかりと力が入り(腹圧が高まり)、下から体幹を支えていれば、首や肩の力は抜けます。
しかし、運動不足や長時間のデスクワークで腹筋が弱り、お腹の力が抜けていると、身体は前に崩れ落ちそうになります。 その時、最後の砦として頭を支えるのが**「肩」**です。
肩をすくめて首を両側から挟み込むようにして固定することで、なんとか頭の位置を保とうとします。いわば、肩の筋肉をギプスや松葉杖のように使って、頭を無理やりロックしているのです。
特に、運動習慣が少なく勉強ばかりしている子供にこのタイプが多いと言われています。 この場合、「姿勢を良くしなさい!」と背中を叩くよりも、外で走らせて足腰と腹筋を鍛える方が、結果的に肩の力が抜けるようになります。
理由④:心理的な「鎧(よろい)」としての肩
最後に、心身医学(ソマティック)の視点から。 肩をすくめるという動作は、本能的な**「防御姿勢」**です。
大きな音がした時、人はとっさに肩をすくめて首を守りますよね? これと同じことが、慢性的なストレス下でも起きています。
「失敗できない」「怒られるかもしれない」「ここは安全な場所ではない」 そういった不安や緊張を無意識に感じている時、人は**「自分を守るため」**に肩を上げます。 肩を下ろすということは、すなわち「警戒を解く」ということであり、心理的に安全が確保されていない状態では、怖くて肩を下ろせなくなってしまうのです。
これは自律神経(交感神経)の過剰な興奮ともリンクしています。 「戦うか、逃げるか」の準備状態にあるため、呼吸は浅くなり、常に身体が戦闘モードになっています。
では、どうすればいいのか? 〜三木医師からの処方箋〜
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。 「ただの肩こりだと思っていたら、こんなに深い理由があったなんて……」と驚かれたかもしれません。
では、この「いかり肩」を解消するために、私たちは何から始めればいいのでしょうか? 動画で語られていた解決策を、私なりに整理して皆さんにお伝えします。
1. 「胃腸」をいたわること まずはお腹のケアです。暴飲暴食を避け、消化の良いものを摂り、お腹の張りを取ってあげましょう。お腹が柔らかくなれば横隔膜が下がり、肩を使わなくても呼吸ができるようになります。
2. 鎖骨周りのスペースを取り戻す 上半身の構造的な歪みを治す必要があります。専門的な施術を受けるのも一つですし、ストレッチで胸郭を広げ、神経や血管の通り道を確保してあげることも大切です。
3. 「腹圧」を高める運動をする 結局のところ、運動は裏切りません。下半身や体幹を鍛え、お腹の中から身体を支える力をつければ、肩は「頭を支える役目」から解放されます。
4. 自分の「心の声」に耳を澄ます これが一番難しいかもしれませんが、最も重要です。 「私は今、何に対して身構えているんだろう?」 「何を恐れて、肩に力を入れているんだろう?」 そうやって自分の感情に気づく(アウェアネスを高める)だけで、フッと力が抜ける瞬間があります。
おわりに
肩が上がっているのは、あなたの身体があなたを必死に守ろうとしている証拠です。 だから、無理やり押し下げようとしたり、「なんで力が抜けないんだ」と自分を責めたりしないでください。
まずは、「いつも頑張って支えてくれてありがとう」と身体に感謝することから始めてみませんか? その上で、胃腸を休め、少し運動をし、心を緩める時間を作ってあげてください。
身体の底にある原因(胃腸、構造、心)が解決された時、あなたの肩は自然と、あるべき位置へと戻っていくはずです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。 三木でした。
