こんにちは、総合診療科の三木です。
診察室で患者さんとお話ししていると、よくこんな相談を受けます。
「先生、最近疲れが取れなくて……」
「野菜中心のヘルシーな食事をしているのに、なんだか肌がカサカサするんです」
実はそれ、**「タンパク質不足」**が原因かもしれません。
特に最近は、健康意識の高まりから「菜食(ベジタリアン)」や「プラントベース」の食事を取り入れる方が増えています。それは素晴らしいことですが、やり方を間違えると、筋肉が落ちて代謝が下がり、かえって老化を早めてしまうこともあるのです。
今日は、私の友人であり信頼できる栄養士のエマさんと、鍼灸師の阿銘師(アミンシ)先生が対談していた非常に興味深い動画の内容をベースに、医学的な視点を加えて**「一生歩ける体と若々しい見た目を保つための、正しいタンパク質摂取法」**について、徹底的に解説します。
長くなりますが、あなたの健康寿命を延ばすための「保存版」としてお読みください。
そもそも、なぜそんなにタンパク質が必要なのか?
「タンパク質=筋肉」と思っていませんか? もちろん筋肉の材料ですが、それだけではありません。
人間の体は、水分を除くとそのほとんどがタンパク質でできています。
- 肌のコラーゲン(シワ・たるみ防止)
- 髪の毛(薄毛・抜け毛防止)
- 免疫抗体(ウイルスと戦う力)
- ホルモンや酵素(体の調子を整える)
これら全て、タンパク質が原料です。
つまり、タンパク質が不足するということは、**「家の材料がないのにリフォームしようとしている」**ようなもの。
結果として、以下のような不調が現れます。
- 見た目の老化: 肌がしぼみ、髪がパサつく。
- 慢性的な痛み: 筋肉が減り(サルコペニア)、骨や関節に負担がかかることで起こる腰痛や膝痛。
- 免疫低下: 風邪をひきやすくなる。
「最近老けたかも?」と思ったら、高級な美容液を買う前に、まずは昨日の食事でタンパク質が足りていたかを思い出してください。
【医師監修】あなたに必要なタンパク質量はこれだ!
「じゃあ、どれくらい食べればいいの?」という疑問に、明確な数字でお答えしましょう。
実は、活動レベルや年齢によって必要な量は変わります。
以下の表にまとめましたので、自分の体重と照らし合わせてみてください。
| あなたのタイプ | 推奨タンパク質量(体重1kgあたり) | 体重60kgの人の場合の目安 | 解説 |
|---|---|---|---|
| 一般成人 | 1.0g 〜 1.2g | 60g 〜 72g | 健康維持のための最低ラインです。 |
| 筋トレ中・増量期 | 1.2g 〜 2.0g | 72g 〜 120g | 筋肉を大きくしたい場合、体重の2倍まで摂る人もいます。 |
| 高齢者・サルコペニア予備軍 | 1.2g 〜 1.5g | 72g 〜 90g | ここが重要! 高齢の方こそ、筋肉維持のために若者より多くのタンパク質が必要です。 |
どうでしょうか?
「えっ、お肉やお魚をそんなに食べられないよ」と思った方もいるかもしれません。特に高齢の方や菜食メインの方は、この量を確保するのが意外と難しいのです。
「植物性」vs「動物性」論争に終止符を打つ
菜食を実践する際、どうしても気になるのが「植物性タンパク質だけで大丈夫か?」という問題です。
結論から言うと、**「工夫すれば大丈夫だが、知識が必要」**です。
ここで**「アミノ酸スコア」**という概念を知っておいてください。タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、体内で作れない「必須アミノ酸」がバランスよく含まれているものを「良質なタンパク質(アミノ酸スコア100)」と呼びます。
動物性(肉・魚・卵・乳):
基本的にすべて「アミノ酸スコア100」。つまり、これだけで完璧な材料になります。これが「動物性が効率が良い」と言われる理由です。
植物性(穀物・豆・野菜):
一部のアミノ酸が欠けていることが多いです。例えば「リジン」が足りない、など。
ただし、例外があります!
植物界の「スリー・キングス」
以下の3つは、植物性でありながらアミノ酸バランスが優秀な「完全タンパク質」に近い存在です。
- 大豆(黄豆)
- 黒豆
- 枝豆
菜食メインの方は、まずこの3つを積極的に摂りましょう。
「アミノ酸の桶理論」で不足を補う
その他の植物性食品(小麦、米、エンドウ豆など)は、単体では不完全です。しかし、諦める必要はありません。
**「食べ合わせ」**で解決できるからです。
- 穀物(米・小麦) + 豆類(リジン豊富) = 最強コンビ
例えば、「ご飯(穀物)」に「納豆(豆)」をかける。「パン(穀物)」と一緒に「豆乳(豆)」を飲む。
昔ながらの日本食の組み合わせは、実は理にかなっていたんですね。これらを組み合わせることで、体内では「完全なタンパク質」として利用されます。
プロテイン(粉)との正しい付き合い方
食事だけで必要量を摂るのが難しい場合、プロテインパウダーは非常に有効な「補助食品」です。しかし、診察室でも多くの誤解を耳にします。
Q. プロテインを飲むと腎臓が悪くなる?
A. 健康な腎臓をお持ちの方なら、心配ありません。
確かに、腎臓病の治療中の方はタンパク質制限が必要ですが、健康な人が体重の2倍程度のタンパク質を摂ったからといって、すぐに腎臓が壊れるというエビデンスはありません。
ただし、「一度に大量摂取」するよりも、「こまめに分散して摂取」する方が、体内の工場の稼働率としては効率的です。
プロテインの種類の選び方(WPC・WPI・水解)
パッケージの裏を見て、迷ったことはありませんか? 簡単に解説します。
- WPC(濃縮乳清タンパク):
- タンパク質含有量 80%前後。
- 牛乳でお腹がゴロゴロしない人、コスパ重視の人向け。
- WPI(分離乳清タンパク):
- タンパク質含有量 90%以上。乳糖や脂質をほぼ除去。
- 牛乳でお腹を下しやすい人(乳糖不耐症)におすすめ。 少し高価ですが、吸収が早いです。
- WPH(加水分解タンパク):
- あらかじめ細かく分解(消化)されている状態。
- アレルギー体質の方や、消化能力が落ちている方、超高速で吸収させたいアスリート向け。
- カゼインプロテイン:
- 吸収がゆっくり。就寝前に飲むことで、寝ている間の筋肉分解を防ぎたいトレーニー向けですが、一般の方はそこまで気にしなくてOK。
【三木医師のアドバイス】
プロテインは便利ですが、あくまで「サプリメント」です。ビタミンやミネラル、食物繊維などの微量栄養素は、やはり「リアルな食事(原型食物)」には敵いません。
「基本は食事、足りない分をプロテイン」というスタンスを忘れないでくださいね。
コンビニ&外食で実践!「隠れタンパク質」を探せ
忙しい毎日、自炊ばかりもしていられませんよね。
コンビニや外食でも、選び方一つでタンパク質は確保できます。
コンビニでの「宝探し」
ただのおにぎりやパンだけで済ませていませんか? そこにプラス一品するだけで変わります。
- 豆乳(200ml): これだけで約7gのタンパク質。
- ゆで卵・茶碗蒸し: 「完全栄養食」です。1個で約6〜7g。
- 枝豆・冷奴: おつまみコーナーは宝の山です。
- ギリシャヨーグルト: 最近人気の高タンパクヨーグルトなら1個で10g以上摂れることも。
- サラダチキンや豆腐バー: もはや定番ですね。
自炊・外食の目安(1食あたりタンパク質20〜30gを目指そう)
- 豆腐: 1パック(3連のものなど)で約5〜7g。半丁食べれば約10g。
- 納豆: 1パックで約7〜8g。
- ご飯(お米): 実はお茶碗1杯で約4g程度のタンパク質が含まれています。
これらを「パズル」のように組み合わせてみてください。
例:ご飯(4g) + 納豆(8g) + お味噌汁に豆腐と卵を入れる(10g) = 合計22g!
これなら、お肉を食べなくても十分な量をクリアできます。
医師として警告したい「代替肉(フェイクミート)」の罠
最後に、最近流行りの「代替肉(大豆ミートなど)」について、医師として一言注意喚起をさせてください。
「植物性だから体にいいはず」と盲信していませんか?
確かに技術は進歩しており、食感はお肉に近いです。ビタミンB12などを添加して栄養強化しているものもあります。
しかし、美味しくするために**「塩分(ナトリウム)」や「油」、「添加物」**が多く使われているケースが非常に多いのです。
私の患者さんでも、「健康のために肉をやめて代替肉にした」と言いつつ、血圧が上がってしまった方がいらっしゃいました。
加工度の高い食品よりも、やはり**「原型に近い食材(豆腐、煮豆、枝豆など)」**を選ぶのが、最もリスクの少ない健康法です。代替肉は「たまの楽しみ」程度にしておくのが賢明でしょう。
まとめ:あなたの体は、あなたが食べたもので作られる
長くなりましたが、今回のポイントを3つに絞ります。
- 老化防止・痛み予防には、体重×1.0g〜1.2gのタンパク質が必須。
- 植物性でも「大豆製品」+「穀物」の組み合わせで、良質な筋肉は作れる。
- プロテインや代替肉は便利だが、依存しすぎず、塩分や添加物に注意する。
「何を食べるか」を選ぶことは、「どう生きたいか」を選ぶことと同じです。
完璧を目指す必要はありません。今日のランチで「おにぎり」に「ゆで卵」を一つ足す。そんな小さな一歩から始めてみませんか?
あなたの体が、明日もっと軽くなることを願っています。
総合診療医 三木
