【医師監修】なぜあなたの痛みは治らないのか?「筋膜の癒着」と「気の滞り」から紐解く根本治療の真実

【医師監修】なぜあなたの痛みは治らないのか?「筋膜の癒着」と「気の滞り」から紐解く根本治療の真実

こんにちは。医師の三木(Miki)です。

日々の診療の中で、「先生、どこに行っても痛みが良くならないんです」という相談を数多く受けます。
整形外科でレントゲンを撮っても「異常なし」、整骨院でマッサージを受けても「その時だけ」、あるいは整体で骨盤矯正をしても「すぐに戻る」。

「私の痛みは、一生このままなのでしょうか?」

そう言って肩を落とす患者さんの姿を見るたびに、私は現代医療が見落としがちな「ある重要な視点」についてお話しするようにしています。それは、痛みの原因を単なる「パーツの故障」として見るのではなく、体全体を流れるエネルギーと構造のバランスとして捉える視点です。

今日は、長引く不調に悩むあなたのために、私の臨床経験に基づいた**「痛みの深層ロジック」**を徹底解説します。なぜあなたの傷は治らないのか?その答えは「筋膜」と「気」の関係性に隠されています。


1. 多くの人が誤解している「筋膜」の正体

近年、テレビや雑誌で「筋膜リリース」という言葉をよく耳にするようになりました。皆さんは「筋膜」と聞いて、どのようなものを想像しますか?
おそらく、筋肉を包んでいるサランラップのような薄い膜をイメージされる方が多いのではないでしょうか。

西洋医学的な解剖図では、確かに筋膜は「層」として描かれます。しかし、東洋医学、そして私の臨床的な感覚からすると、筋膜は単なる薄いシートではありません。

1-1. 筋膜は「膜」と「気」で構成された風船である

私はよく、筋膜を**「長い風船」**に例えて説明します。

  • 外側のゴム部分: これがいわゆる**「経筋(けいきん)」**と呼ばれる物理的な膜組織です。
  • 中の空気部分: ここには**「経絡(けいきらく)」が流れ、エネルギーである「気」**が充填されています。

健康な状態の筋膜とは、風船に空気がパンパンに入っていて、ハリがあり、真っ直ぐに伸びている状態です。この「外側の膜」と「中身の気」の両方が整って初めて、私たちの体は痛みなくスムーズに動くことができます。

しかし、長引く痛みを抱える方の体では、この風船に何らかのトラブルが起きています。そのトラブルは、大きく分けて2つのパターンしかありません。

  • 「膜」そのものが物理的に癒着して(くっついて)しまっている状態
  • 中身の「気」が不足して、風船がしぼんでしまっている状態

あなたの痛みがどちらのタイプなのかによって、選ぶべき治療法は180度変わります。ここを間違えているからこそ、多くの人が「治療難民」となってしまっているのです。


2. タイプA:「膜」が物理的に卡(か)んでいるケース

まず一つ目は、物理的な構造に問題があるケースです。私はこれを**「膜が卡(か)んでいる」**、つまり物理的な引っかかりや癒着がある状態と呼んでいます。

2-1. 膜の癒着が引き起こす「力の分断」

怪我や外傷、あるいは長時間の不良姿勢などが原因で、筋膜という「風船のゴム」の一部がクシャッと折れ曲がったり、隣の組織とベタッとくっついたり(癒着)します。

風船の一部をテープで止めて歪ませた状態を想像してください。その状態で風船を動かそうとしても、力がスムーズに伝わりませんよね?
体の中でこれと同じことが起こると、「力の伝達経路」が分断されます。
筋肉が本来の力を発揮できなくなるため、その分を補おうとして別の筋肉が無理をする**「代償動作(だいしょうどうさ)」**が生まれます。これが、患部とは違う場所に痛みが出る原因です。

2-2. 臨床的な特徴:外側からの張力は強い

このタイプの最大の特徴は、「中身の気(エネルギー)」は十分にあるということです。
私が触診(手で触れて診察すること)をすると、患者さんの筋肉にはパンパンとした張り(張力)を感じます。風船の空気は入っているけれど、外側のゴムがねじれているだけだからです。

  • 触診の感覚: 弾力があり、押し返す力がある。
  • 痛みの特徴: 動作時痛が明確。動かすと特定の部分が突っ張る。
  • 原因の自覚: 「重いものを持った瞬間」「転んだ」など、きっかけが明確な場合が多い。

2-3. 効果的な治療法:物理的な介入

このタイプは、いわゆる「外傷」に近い状態です。中身は元気なので、物理的なねじれさえ取ってあげれば、劇的に改善します。

  • 有効な治療: 筋膜リリース、整骨院での手技、鍼治療(癒着剥がし)、ストレッチ。
  • 改善のスピード: 早い。適切な処置をすれば、2〜3回の治療で明らかに体が軽くなる感覚を得られます。

もし、あなたが整体やマッサージに行って「すごく楽になった!」と実感できるなら、あなたの痛みはこの「膜が卡んでいる」タイプである可能性が高いでしょう。


3. タイプB:「気」が通っていないケース(現代人に急増中)

問題なのは、こちらのタイプです。
「何度も整体に通っているのに、その場しのぎにしかならない」
「特に何もしていないのに、朝起きたら首が痛かった(寝違え)」
「常に体が重だるく、痛い場所が移動する」

こういった症状を訴える方は、構造の問題ではなく、エネルギーの問題、つまり**「気不通(きふつう)」**の状態にあると考えられます。

3-1. しぼんだ風船をマッサージしても意味がない

「気不通」とは、風船の中の空気が抜けて、ペコペコにしぼんでしまった状態です。東洋医学でいう**「虚(きょ)」**の状態です。

しぼんだ風船は、形が歪みます。重力に負けて折れ曲がります。
一見すると、先ほどの「膜の癒着」と同じように体が歪んで見えます。しかし、決定的な違いは**「中身がない」**ことです。

ここで、空気が抜けてクシャクシャになった風船を、外側から一生懸命手で伸ばそうとすることを想像してみてください(=マッサージや矯正)。
一瞬は伸びるかもしれませんが、手を離せばまたすぐにクシャッと潰れてしまいますよね?
中身の空気が入っていないのに、外側から形だけ整えようとしても、根本的な解決にはならないのです。

3-2. 臨床的な特徴:触ると「フニャフニャ」している

このタイプの患者さんを触診すると、非常に特徴的な反応があります。

  • 触診の感覚: 表面の筋肉に力がなく、フニャフニャと柔らかすぎる。あるいは、芯がなくスカスカしている。
  • 患者さんの自覚: **「すごく凝っています」「パンパンに張っています」**と訴えることが多い。

ここが非常に重要なパラドックスです。
「患者さんは『張っている』と感じているが、医学的に触ると『力がなく弛んでいる』」

中身の気が不足し、体を支える内圧が保てないため、筋肉が常に微細な緊張を強いられて「こわばり」を感じているのです。しかし、組織としての健やかな弾力は失われています。

3-3. なぜ「気」が不足するのか?

現代人、特に都市部で生活する方にこのタイプが圧倒的に多いのには理由があります。

  • 慢性的な疲労・睡眠不足: 体のバッテリー切れ。
  • 内臓の不調: 東洋医学では、胃腸などの内臓が「気」を生み出す源と考えます。暴飲暴食やストレスで内臓が弱ると、全身の筋膜に送るエネルギーが枯渇します。
  • 精神的ストレス: 自律神経の乱れは、気の流れを直接的に阻害します。

3-4. 「寝違え」の真実

よくある「寝違え」を例に挙げましょう。
「変な姿勢で寝ていたから首を痛めた」と思っている方が多いですが、本当にそうでしょうか?
寝ている間はリラックスしているはずです。それなのに筋肉が傷つくというのは、実は**「寝ている間に回復するだけのエネルギー(気)すらなかった」あるいは「寝る前から風船がしぼんでいて、寝返りなどの些細な動きで組織が傷ついた」というのが真実です。
「何もしていないのに痛くなった」のではなく、「何もしていない状態すら支えられないほど、体が弱っていた(虚していた)」**という体からのSOSなのです。


4. あなたの痛みはどっち?自己チェック法

では、自分の痛みが「膜の癒着(構造)」なのか、「気の不足(エネルギー)」なのか、どう見極めればよいのでしょうか。
専門的な脈診などは我々医師やプロに任せるとして、ご自身でできる簡単なチェック方法をご紹介します。

【チェック1】上肢の検査:三心同面(さんしんどうめん)

腕や肩の不調、あるいは「膜」の連動性をチェックする方法です。

  • 片腕を横に水平に上げます。
  • 肘を曲げずに、手のひらを天井に向けます。
  • この時、以下の3つの「心」がすべて天井を向いているか確認してください。
    • 手のひら(掌心)
    • 肘の内側(肘窩)
    • 脇の下(腋窩)

判定:
もし、手のひらは上を向くけれど、肘や脇が一緒に回らず、前や下を向いてしまう場合、それは腕から肩にかけての**「膜の癒着(ねじれ)」が強いサインです(タイプAの要素)。
逆に、これがスムーズにできるのに痛みや重だるさがある場合は、構造的な癒着よりも「気の不足」**(タイプB)を疑います。

【チェック2】下肢の検査:アキレス腱のライン

立った状態で、後ろから誰かにスマホで自分のかかと〜ふくらはぎの写真を撮ってもらってください。

判定:

  • 正常: かかとの骨の中心と、アキレス腱のラインが一直線になっている。
  • 異常: かかとの骨に対して、アキレス腱が「くの字」に曲がっている。あるいは、足首が内側に倒れ込んで(回内して)X脚気味になっている。

これは、下半身の筋膜構造が崩れているサインです。
もし、この構造の崩れ(膜の癒着)が顕著であれば、物理的な矯正やインソールなどの治療が有効(タイプA)です。
しかし、見た目のラインは綺麗なのに「足がだるい」「膝が痛い」という場合は、エネルギー不足による支持性の低下(タイプB)である可能性が高くなります。


5. 【結論】タイプ別・最適な治療戦略

ご自身のタイプがなんとなく見えてきたでしょうか。
重要なのは、**「自分のタイプに合った治療を選ぶ」**ことです。これが最短ルートで痛みを治す鍵となります。

比較まとめ:あなたの痛みの正体

特徴タイプA:膜の癒着(外傷型)タイプB:気の滞り・不足(虚弱型)
痛みのきっかけ明確(ぶつけた、捻った、使いすぎた)不明(いつの間にか、朝起きたら、ストレス)
触った感覚パンパンに張っている、弾力があるフニャフニャ、柔らかすぎる、芯がない
患者の自覚「ここが突っ張る」「凝っている」「張っている」(でも触ると柔らかい)
有効な治療物理療法<br>・筋膜リリース<br>・整体、マッサージ<br>・ストレッチ内科的・エネルギー療法<br>・漢方薬、栄養療法<br>・鍼灸(経絡調整・補気)<br>・睡眠、休養
改善までの期間短期決戦(2〜3回で変化が出る)長期計画(体質改善が必要)

タイプA(膜癒着)の方へ

あなたは幸運です。原因が物理的なものなので、適切な物理療法(整体、カイロプラクティック、理学療法など)を受ければ、比較的早く改善します。
「ここが癒着しているな」というポイント(トリガーポイントなど)を見つけ、そこを剥がせば、風船のねじれが取れて、機能は回復します。

タイプB(気不足)の方へ

現代人の多くがこちらに当てはまります。そして、こちらの方が治すのに工夫が必要です。
このタイプの方が、いきなり強いマッサージやボキボキする矯正を受けるのはお勧めしません。しぼんだ風船を無理に引っ張ると、逆に組織を痛めてしまうことがあるからです。

【推奨するステップ】

  • まずは「膨らませる」:
    内臓の調子を整えることが最優先です。暴飲暴食を控え、睡眠時間を確保し、場合によっては漢方薬やサプリメントを活用して「気(エネルギー)」をチャージします。鍼灸治療でも、患部を刺激するより、全身の気を補う治療が適しています。
  • 脈を整える:
    私たち専門家は、まず脈診で左右・上下のバランスを整えます。気が満ちてくると、自然と筋肉に本来の弾力が戻ってきます。
  • 最後に構造を治す:
    風船が膨らんでから初めて、残っている癒着や歪みを取り除く物理療法を行います。

おわりに:痛みは体からの「メッセージ」

「なぜ私の痛みは治らないんだろう?」
そう悩み続けてきた方にとって、今回の話が少しでも解決の糸口になれば幸いです。

痛み治療において、西洋医学的な検査も、東洋医学的な身体観も、物理療法も、運動療法も、それぞれ素晴らしい役割を持っています。
どれが優れているかではなく、**「今のあなたの体の状態(病態)に、どの手段がマッチしているか」**が全てです。

もし、今まで「外側からのアプローチ(マッサージや矯正)」ばかりして良くならなかったのであれば、一度視点を変えて、**「内側からのエネルギー(気・内臓・生活習慣)」**に目を向けてみてください。

体は正直です。あなたが体の声(痛みの本質)を正しく理解し、適切なケアをしてあげれば、体は必ず健康という形で応えてくれます。
遠回りに思えるかもしれませんが、自分の体を深く知ることこそが、痛みのない生活への一番の近道なのです。

あきらめずに、一緒に向き合っていきましょう。


瘋狂設計師 Chris
三木医師
総合診療科医・三木が築く**「健康防衛砦」。病気から身を守る最新医療の知識と、体を内側から強くする漢方・美容の知恵を公開。ゆるぎない生命力**の土台を共に作り上げます。