【甲状腺機能亢進症】あなたの身体は「終わらない夏」を繰り返していませんか?数値は正常でも辛いあなたへ

【甲状腺機能亢進症】あなたの身体は「終わらない夏」を繰り返していませんか?数値は正常でも辛いあなたへ

こんにちは、三木です。

日々の診療の中で、甲状腺の不調を抱える患者さんと向き合うことが多くあります。特に「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」と診断され、お薬を飲んでいる方からよく聞かれる切実な悩みがあります。

「先生、いつになったら薬を止められますか?」
「検査の数値は正常になったと言われたのに、どうしてこんなに身体がだるいんでしょう?」
「再発するのが怖くて、薬を減らす勇気が出ません」

現代医学は素晴らしい進歩を遂げており、甲状腺ホルモンの数値をコントロールすることは比較的容易になりました。眼球突出や激しい手指の震えといった、かつて恐れられた症状もコントロールしやすくなっています。

しかし、「数値は正常」なのに「体調が悪い」。
このギャップに苦しんでいる方が、実は非常に多いのです。

今日は、少し視点を変えてお話ししましょう。西洋医学的なホルモンの話だけでなく、古くからの知恵である「東洋医学(中医学)」の視点を取り入れることで、あなたのその「抜け出せない辛さ」の正体が見えてくるかもしれません。

キーワードは、**「あなたの身体は、夏で止まっている」**です。


1. 現代医学で見る「シーソーのバランス」

まず、基本となる西洋医学的な視点をおさらいしましょう。私たちが病院で行う血液検査では、主に以下の数値をチェックします。

  • T4(およびT3): 甲状腺から分泌されるホルモン。これが多すぎると「亢進症」です。
  • TSH(甲状腺刺激ホルモン): 脳から出て、「甲状腺よ、ホルモンを出せ」と命令するホルモン。

健康な状態では、この2つは美しい**「シーソー(または天秤)」**の関係にあります。

  • T4が増える → 脳が「もう十分だ」と感知し、TSHを減らす
  • T4が減る → 脳が「もっと出せ」と命令し、TSHを増やす

この絶妙なフィードバック機能によって、私たちの身体は動的平衡(ダイナミック・バランス)を保っています。

バセドウ病で起きていること

甲状腺機能亢進症の状態では、このシーソーが壊れています。
自己抗体などの影響で、T4が過剰に出続けているのに、TSHが極限まで下がったまま戻らないのです。

現代医学の治療(メルカゾールやチウラジールなどの抗甲状腺薬)は、この「高すぎるT4」を強制的に抑え込むアプローチです。
「T4が高いから、薬で下げよう。そうすればシーソーの反対側にあるTSHが自然に上がってくるはずだ」と考えます。

しかし、臨床現場では不思議なことが起こります。
薬でT4を下げたのに、TSHがなかなか上がってこない。あるいは、薬を止めるとすぐにまたバランスが崩れてしまう。
これが、多くの患者さんが直面する「いつまでも薬が手放せない」という状況です。


2. 東洋医学的視点:「夏」に閉じ込められた身体

ここで、東洋医学(中医学)の古典的な視点を導入してみましょう。
少し不思議に聞こえるかもしれませんが、東洋医学では**「臓器」と「季節(時間)」**を対応させて考えます。

  • 春 = 肝(かん)
  • 夏 = 心(しん)
  • 秋 = 肺(はい)
  • 冬 = 腎(じん)

甲状腺機能亢進症の患者さんが訴える症状を思い出してください。

  • 暑がりになる
  • 汗が止まらない
  • 動悸がする(心臓が早鐘を打つ)
  • イライラして落ち着かない(煩躁)

これらはすべて、「猛暑の夏」に私たちが感じる感覚そのものではないでしょうか?
外の季節が冬であっても、患者さんの身体の内側だけが、灼熱の「真夏」になっている状態。

つまり、甲状腺機能亢進症とは、**「個人の体内時計が、永遠に『夏』で停止してしまった状態」**と言い換えることができるのです。

「火」を消すだけでは解決しない?

身体が「熱い」なら、冷やせばいい。これは直感的に正しい治療法です。
西洋医学でホルモンを抑えるのも、中医学で「清熱(熱を冷ます)」薬を使うのも、原理は「火を消す(あるいは水を足す)」ことです。

しかし、「時間」という概念を取り入れると、もう一つの解決策が見えてきます。
それは、**「止まった時間を動かし、季節を巡らせる」**ことです。

永遠に続く夏はありません。夏の後には秋が来て、涼しくなり、やがて冬が来ます。
治療の真のゴールは、単に熱を下げることではなく、**「身体を『夏』から『秋』へと移行させる(=時間を流す)」**ことにあるのです。


3. 自己チェック:あなたはどの季節で止まっている?

「夏で止まっている」と言っても、その止まり方には個人差があります。中医学的な問診を行うと、患者さんが「どの季節の境界線」でスタックしているかが見えてきます。

あなたはどのタイプに当てはまりますか?

① 春から夏へ入れないタイプ(春の停滞)

  • 主な症状: 動悸はするが、**「手足が冷たい」「寒がり(畏風)」**がある。
  • 解説: 甲状腺ホルモンは過剰(=熱)なのに、本人は寒気を感じています。これは、エネルギーが身体の表面まで巡りきらず、春の段階でくすぶっている状態です。

② 盛夏(真夏)で燃え盛っているタイプ

  • 主な症状: 激しい動悸、のぼせ、「口内炎ができる」「ニキビが増える」
  • 解説: まさに炎天下の真夏です。身体の中に余分な熱がこもりすぎて、粘膜や皮膚に炎症として吹き出しています。

③ 夏から秋へ移れないタイプ(晩夏の停滞)

  • 主な症状: 動悸に加え、**「異常な発汗」**がある。動くと滝のような汗が出る。
  • 解説: 夏の終わり、湿度が高く蒸し暑い時期のイメージです。身体の水分調整(毛穴の開閉など)がうまくいかず、エネルギーと一緒に水分が漏れ出しています。

4. なぜ「数値は正常」なのに「だるい」のか?

ここからが、今日最もお伝えしたい重要なポイントです。
「薬で数値は落ち着いているのに、身体が鉛のように重い」
「一日中、疲れが取れない」

この症状を訴える患者さんを、私は**「漏電している人」**と呼んでいます。

甲状腺機能亢進症は、身体の代謝を異常に高める病気です。例えるなら、充電池が劣化して「漏電」している状態です。
朝、フル充電(睡眠)して出かけたはずなのに、何もしていないのにお昼にはバッテリー残量が20%になっている。そんなイメージです。

「火」には2種類ある

ここで少し専門的な話をします。中医学では、体内の「火(エネルギー)」を2つに分けて考えます。

  • 君火(くんか): 身体を統制する、理性的で静かなエネルギー。「王様」の火。
  • 相火(そうか): 実際に身体を動かす、活動的なエネルギー。「家臣」の火。

健康な状態(君火がしっかりしている状態)は、**「心(こころ)は鏡のように澄んでいて静か(心明如鏡)」**です。冷静で、判断力があり、無駄なエネルギーを使いません。

しかし、バセドウ病の状態は、「相火(家臣)」が暴走している状態です。
イライラ、焦燥感、動悸、手足の震え。これらはすべて、統制を失った家臣たちが勝手に騒いでいる「無駄な火」です。

治療のパラダイムシフト

ここで問題になるのが、西洋医学の薬や、単に熱を冷ます漢方薬を使った場合です。
これらは「火を消す」作用があります。
暴走している「相火」を抑えるのには有効ですが、同時に、本来必要な生命力である「君火(王様)」まで弱らせてしまうことがあるのです。

これが、「数値は正常になった(暴走は止まった)が、だるくて動けない(王様も弱ってしまった)」原因です。

漏電しすぎて、バッテリー自体がヘタってしまっている人に、さらに「冷やす」治療だけを行うと、体調不良は長引きます。
このタイプの患者さんに本当に必要なのは、熱を冷ますことよりも、**「漏電を修理し、バッテリー(元気)をチャージする」**ことかもしれません。
専門的には「補気(ほき)」や「収斂(しゅうれん)」といって、漏れ出るエネルギーを引き締め、蓄える治療が必要になります。


5. 生活の中でできる「季節の進め方」と食事

では、具体的にどうすれば「体内の季節」を夏から秋へ進められるのでしょうか?
食事の選び方一つで、身体へのメッセージを変えることができます。

A. 首に「腫れ(結節)」があるタイプ

首が腫れていたり、結節(しこり)がある方は、**「鹹味(かんみ=塩辛い味)」**を取り入れましょう。
中医学には「軟堅散結(なんけんさんけつ)」といって、しこりを和らげるには海産物の持つ天然の塩味が良いとされています。

  • おすすめ食材: 昆布、海苔、海藻類(海藻サラダ、わかめスープなど)、牡蠣(ボレイ)。
    • ※注意:ヨード制限を指示されている方は、主治医の指示に従ってください。西洋医学的な制限がある場合は、牡蠣(貝類)などが適している場合があります。

B. 腫れはないが、症状(動悸・イライラ)が強いタイプ

このタイプの方は、「夏」から「秋」への移行を促す味が必要です。
夏を象徴する**「苦味」と、秋を象徴する「酸味」**を組み合わせます。

  • 苦味(熱を冷ます): ゴーヤ、緑茶、コーヒー(カフェインレス推奨)、山菜など。
  • 酸味(漏れを引き締める): 酢の物、レモン、梅干し、五味子(ハーブティー)。

特に**「酸味」**は重要です。酸っぱさは、開いた毛穴や心を「キュッ」と引き締める(収斂)作用があります。漏れ出る汗やエネルギーを内側に留め、秋のような「収穫・蓄積」のモードへ身体を切り替えてくれます。

生活リズムで「夜」を作る

「夏」は「昼」に対応します。ずっと明るくて活動的な状態です。
身体を秋(=夕方〜夜)にするためには、強制的に「暗くて静かな時間」を作ることが大切です。

  • 夜は照明を落とす。
  • スマホを見る時間を減らす(情報の熱を入れない)。
  • 深呼吸をして、意識的に「スローダウン」する。

おわりに:焦らなくて大丈夫です

甲状腺の病気は、目に見えない「時間」や「エネルギー」のバランスが崩れた結果として現れることが多いものです。

薬を飲んでいるのに辛い時、それは「薬が効いていない」のではなく、**「身体の季節がまだ移ろっていない」だけかもしれません。あるいは、「今はエネルギーをチャージすべき時期」**なのかもしれません。

西洋医学的な数値管理は、命を守るために不可欠です。それは絶対に続けてください。
ですが、それと同時に、
「今の自分は、どの季節にいるんだろう?」
「少しバッテリーが漏電しているから、酸っぱいものを食べて早めに寝よう」
そんなふうに、ご自身の身体を「自然の一部」として労ってあげてください。

季節が必ず巡るように、あなたの身体も必ず変化していきます。
焦らず、ゆっくりと、身体の時計を整えていきましょう。

三木


瘋狂設計師 Chris
三木医師
総合診療科医・三木が築く**「健康防衛砦」。病気から身を守る最新医療の知識と、体を内側から強くする漢方・美容の知恵を公開。ゆるぎない生命力**の土台を共に作り上げます。